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忘れてはいけないのは薬剤は全人的ケアの一部であって、「薬を与える」と同時に「私たちの時間を与える」ことも必要である。患者さんに共感して理解する姿勢を示し、気持ちにゆとりを持って精神的ケアの対応にも積極的な関わりが望まれる。

(2)症状コントロール・症状マネジメント
 がん患者さんの痛み以外の症状コントロール(精神変調、全身症状、消化器系、呼吸器系)についても、患者さんや家族とよく話し合い、患者さんの安楽を一番に考えて症状緩和していくために、薬物を使用する場合にその効果、副作用も十分考慮すること、そしてどの時期から使用するか患者さんの予後との見極めで判断することが大事であるし、全身管理も見落としてはいけないと思った。
 終末期の患者さんに起こる消化器症状の中でも、吐気は患者さん自身にしかわからない不快な症状で、吐気が常時あることは苦痛でありQOLを低下させてしまうので、原因についてひとつに特定しなくても予測して症状緩和につながるようにケアしていくことが望ましいし、目に見えない症状なので軽く考えてしまいがちになるので気をつける必要がある。また終末期では症状のコントロールの限界があり、患者さんとの希望のずれに注意して患者さんや家族と一緒にどういうことが可能か話し合いを持つことや、今後の見通しや、何の目的で処置しているかなど、繰り返しの説明を行い不安の軽減の配慮も忘れないこと、やりっぱなしではなく効果を見ていくことが大切だと感じた。
 今回の講義でターミナル期のリハビリテーションの必要性についても学べた。ターミナル期のリハビリテーションは患者さんが体力消耗して、それによる日常生活行為の低下により障害を持ったことで生活上の不自由な場面で、残っている能力(潜在的な能力)に目を向けて積極的に引き出し延ばす医学であること、「目標指向的・積極的リハプログラム」を計画して、その人の生活に視点をおき限られた時間の中で具体的な予後を常に先読みし、患者さんのQOLの向上を目的に取り組まれているので緩和ケアの重要な部分であるということがわかった。具体的アプローチについては、生活レベルの目標を明確にし、貴重な時間を無駄に過ごすことのないように家族も含めて話し合い、リハプログラムについても、選択肢を提供し、患者さんの自己決定権を尊重し、適切な日常生活行為の仕方や補助具を選択して使い方を指導するなど不自由さがひとつでも解決されることにつながる。また患者さんが急変する事態も考慮に入れて対応できる、柔軟性を持ったアプローチが火切だと思った。

(3)がん患者さんの心理的特徴と援助
 死が訪れるかもしれないと感じて自覚するのは必ずしも終末期の患者さんに限らないが、がんと診断された時から病気と死のストレスとのつきあいが始まり、不安や恐怖、ボディイメージの変化や社会的役割の変化など様々なストレスが生み出され、そのストレスがあまりに大きいか、あるいは適応能力が不十分であれば適応障害や病的な精神症状が出現することもあるということである。
 アメリカの精神医学者キューブラー・ロスは、「死にゆく人の心理過程」の精神的対応メカニズムを5段階で作成している。?否認、?怒り、?取り引き、?抑うつ、?受容で、これらの過程は常にこの順序でたどられる絶対的な段階ではなく、死にゆく患者さんがたどるであろう様々な心理状態を理解する指針となり、すべての段階を通じて希望が維持されるものであることを強調している。患者さんは感情が常に揺れ動きながらもストレスに対処しようとしているので、どういう心理状態なのか、持続期間や感情の強さも違うので個々により大きく異なるということも理解して、その患者さんの生きてきた歴史、価値観に基づく柔軟な対応による援助を行っていくことが大切だと感じた。
 患者さんが適応できずに強い不安や抑うつ状態について気づかれずに放置されたり、判断を誤って関わり、心のサインを見逃して間違った方向に傾いたりするので、その症状に応じた精神療法的アプローチと薬物療法を組み合わせることも必要になるので、精神科医への紹介のタイミングも考慮して患者さんにわかりやすい説明を心がけ、無理強いをしないで、できるだけ気持ちを聴いてあげて孤独感を感じないように家族と共に支えていくことが大事だといえる。

 

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