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せっかく社会資源を利用できる対象であるのに誰も伝えることなく利用できなかったのでは無駄になるため、何を患者・家族が望み、何を利用できるか常に考えていきたい。

実習を通しての学んだこと

 想像以上に忙しいホスピスにおいて医療スタッフのとられていた行動は、患者や家族の前では決して忙しさを出さないということだった。個々の権利や人格を尊重し、共感や傾聴の態度で接し、あなたのために時間はゆっくりあること、あなたをスタッフ全員大切に思っていることを患者に伝え、安心感を与えている姿勢に多くのことを学んだ。患者中心の看護と言いながら私がとっていた行動は自己中心的なもので、早く仕事を遂行していくために画一的な関わりしか持てず、一連の流れの中に患者を乗せていたと反省させられた。患者の意志を優先したケア計画を立てていくようにしたい。
 医師の関わりにおいても他のスタッフと同様、患者・家族の権利や人格を尊重するものであった。インフォームド・コンセントをきちんと行い、緩和治療に関して方法を全て提示し、どれがよいか患者と相談して決め、今後の説明に関してもどこまで話してよいか患者に確認をとっていた。多くの現場ではまだ医療者の立場が強く、治療法に関しても医師の考えが優先させられたり、患者抜きで家族と医療者の間だけで今後のことを決定してしまうことがあると思われる。患者・家族・医療者が同じ立場に立って関わりあっていくことの大切さを学んだ。
 入院当日の患者やその家族への対応では、ホスピスをどのように理解しているか確認し、不足しているところや誤って理解されているところはきちんと補足一修正することが大切だと学んだ。ホスピスを自ら希望し入院したとはいえ、入院できたということは自分がその対象であることを再認識せざるをえない。そこで死に場所ではなく辛い症状をとるとともに、日々あなたらしく過ごすようにする場所であることを伝え、多少なりとも悲嘆を軽くし、今後に対する希望を与えていくことが大切なのだと感じた。
 チームアプローチに関しては、医師・看護婦は毎日カンファレンスを通して意見交換し、意識統一を行っている。また、ボランティア・チャプレン・理学療法士・作業療法士との連携もきちんと取り、チームアプローチを行っていた。しかし連携を取るからといって看護婦がその関わりに全て介入するのではなく、お互いに必要な情報は伝えるが、あとはそれぞれのスタッフを信じるとともに尊重し、スタッフと患者・家族との信頼関係を大事にし、介入しないことも大事なチームアプローチだと学んだ。また、プライマリーナーシング制をとっているため個々の看護婦の負担が大きいと思われるが、個々の責任にはせずチーム全体で支え合うことが大切であることを学んだ。そしてこの施設は毎日朝礼を通して病院の理念を全職員に浸透させており、スタッフ全員がその目標に向かってアプローチしていくことができるのだと感じた。
 緩和治療・看護に関して、スタッフ全員が全知識と技術を駆使して患者の苦痛を取り除く努力をされていた。医師は毎朝看護婦の申し送りに参加して、薬の効果や副作用をチェックするとともに、頻回に病室を訪問して情報収集を行い薬の微調整を行っていた。また患者の不快な症状を取るため薬の服用が可能な患者は多剤併用となるが、服用困難になったり服用ができない薬剤に対しては、持続皮下注射法を行うことで確実に症状コントロールでき、患者のADLも阻害することがないので、ぜひ施設に戻り医師に伝えていきたい。看護においても全て薬剤に頼ることはせず、看護の専門技術により症状が緩和されることにはいろいろ工夫しながら取り組んでおり、誠意を持って対処する姿勢や方法を学ぶことができた。

今後の課題

 私の所属する病棟は一般病棟であるためホスピス病棟ほど人員の確保ができず、限られた時間の中で患者・家族が望むケアを行っていくには医師・看護婦とも負担が多い。また自分の病名や病状を理解してホスピスに入院した患者でも、死を受容し平安な気持ちで過ごすことは難しく、精神的・社会的・霊的苦痛はほとんどの患者が最後まで抱えており、それをチャプレンやソーシャルワーカー・理学療法士などのスタッフがいない病棟で癒していくには、看護婦の役割が非常に大きくなると思われる。

 

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