日本財団 図書館


今回の研修で得た知識に甘んじることなく、今後も患者さんのために自己学習を続けていかなければと思う。また得た知識を当施設に持ち帰り、紹介し、患者さんの癖痛をはじめとする症状コントロールにつなげていく必要がある。コントロールのための薬剤は医師が処方するが、その処方の根拠となる情報の提供や、薬剤の効果を評価することは看護の力で十分できる。「日本の癌も痛くなくなった」と言われる日が早くくるように看護も力を発揮したい。
 QOLの向上についても恒藤先生は、「QOLを高めるためには、症状緩和による現実の改善と十分なコミュニケーションによって患者の希望を現実に近づけることが重要となる」と述べられている。ここでの「現実」とは、やはり「告知」になってくると思う。ターミナル期の患者さんは、たとえ症状がコントロールされたとしても病状は基本的には悪化していく。「現実」、つまり病状を患者さんの「希望」に近づけることはできないのである。よって患者さんの「希望」を「現実」に近づけるわけだが、真の「現実」を知らずに「希望」を近づけることなどできない。「告知」なしにQOLのみを高めることはできないということになる。当施設では基本的には告知はしていない。告知をする場合もあるが、その方が例外である。つまり基本的にはQOLを高めることはできず、例外的にQOLを高めるチャンスがあるということになり、そう考えるととても情けない気持ちになる。すべての患者さんに告知をした方が良いとまでは言えないが、告知することで著しくQOLがあがると考えられる患者さんもおられる。今後はこの情けない現実をまず当施設のスタッフに知らせ、患者さんに「現実」を知ってもらうことの意義も伝えていく必要があると考える。そして患者さんのQOLの向上につながるよう十分なコミュニケーションのできる看護を提供したい。
 3番目のチーム医療も当施設の未熟な点のひとつである。チームアプローチに関する講義もあった。看護におけるチームアプローチは、患者さんの情報を共有し、カンファレンスで看護チームとしての目標を看護婦全員で共通認識し、チームメンバー全員がそのひとつの目標に向かって努力するということである。さらに医師をはじめとする他の医療職に看護チームの目標を伝え、意見を聴き話し合い、医療チームとしての目標をたて、その目標に向かって医療チームのメンバー全員が努力する、それがチーム医療である。当施設ではまず看護婦がチームに慣れていない。看護目標と呼ばれるものはあるが、チームメンバー全員がひとつの目標に向かって努力しているとはとても思えない。まして医師とは反対の方向を向いているのではとさえ思えることもある。まず看護チームとしてのひとつの目標をたてるため、全員がきちんと意見を出し合えるチームでなければいけない。また医師と意見の交換をするためには医学的知識もなければいけない。私が看護婦として個人的にできることは、せめて自分の意見をはっきりとみんなに伝えること、ここでも自己学習により医学的知識を付けること、勉強会で知識の共有をすることなどがあげられる。
 当施設での緩和ケアの際に、医療チームとしての方向性のずれが生じてしまう要因に、治癒を目指した医療から緩和ケアへの切り替えがはっきりとできていないことがあげられる。「もう治癒は望めない、治癒を目指した医療はしない」と決めたのなら、その後は明らかに緩和ケアになっていき症状コントロールをまず第一に考えるべきである。それなのに患者さんにとって有効とは考えられない輸液や薬剤の使用、延命処置がなされてしまう。この点に関しては、聖隷三方原病院の千原先生から「患者さんにとっての善は何かと考えれば症状コントロールになる」との明快なアドバイスをいただいた。今後は医療チームとして「患者さんにとっての善は何か」という本質を見失わないよう常に確認し合いながら緩和ケアに取り組みたい。
 治癒を目指した医療から緩和ケアへ切り替える際、患者さんや家族に「見放された」という思いを抱かせてしまうこともある。それは普段からのコミュニケーションが不足していたとしか言いようがない。これも千原先生の言葉であるが、「医師も看護婦も医療に限界があることを認め、患者さんにも家族にも医療に限界があることを認めてもらい、お互いが医療の限界を認め合いながらそのうえでベストを尽くさなければならない」。普段からコミュニケーションのできていない患者さんや家族に、ターミナル期に入ったからといってそこで初めて「医療の限界です」と言っても、「見放された」としか思えない。コミュニケーションは本当に重要である。

 

前ページ    目次へ    次ページ






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION