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以前からの思い一層強くなって

岡山大学歯学部附属病院
岡本多恵

 この2ヵ月間の研修を終えて、私は新たな思いを抱いたというよりは、研修を受ける前から抱いていた思いをより一層強くしたという感覚である。つまり研修に参加したいと思う動機となった「緩和ケア病棟でなくても患者さんがすばらしい人生の最後を迎えられるような援助ができる知識や技術を看護婦は身につけておくべきではないか」という思いが、「緩和ケア病棟でなくてもターミナル期の患者さんは緩和ケアを受ける権利がある。医療者ならだれでも緩和ケアを提供できる知識を身につけておく義務がある」というように。
 もうひとつは私が看護学生だった頃からのテーマ、看護観といっても良いと思うが「患者さんのニードを正確に把握し、そのニードに対し適切な援助をする」という思いが、「患者さんのニードを正確に把握するためには十分なコミュニケーションが必要不可欠である。医療者は患者さんのニードを正確に把握した上で、その充足のためにあらゆる資源を活用し適切な援助をしなければならない。患者さんのニードはその健康状態やおかれている環境によって変化していくので、常にコミュニケーションを続けなければいけない。そしてケアも続けなければいけない」というように強いものに変化した。
 研修の総まとめであるこの「どんな看護を提供したいか」というレポートでは、“一般病棟における緩和ケア”と“コミュニケーション(スキル)”の2点を中心に述べたい。
           
 3人に一人は癌で亡くなる現在、極端に言えば病院の3分の1が緩和ケア病棟であっても良い。もちろんこれは言いすぎではあるが、それにしても現在の全国に45施設・808床というのはあまりにも少ない。開設準備中や認可待ちの施設を含めてもまだまだ少ない。また緩和ケア病棟の開設には様々な条件があり、需要があるからといってすぐに開設というわけにはいかない。しかしながらある講義の中で言われていた「日本の癌は痛い」という言葉も真理であり、緩和ケアを必要としている患者さんが緩和ケアを受けられず苦しんでいるということもまた事実である。
 私の勤務している岡山大学歯学部附属病院は、一般の人からは緩和ケアとはある意味では対極にある病院と考えられているかもしれない。しかしながら年に数例はターミナルステージを迎える患者さんがおられる。過去当施設で亡くなられた患者さんがみなさん穏やかな人生の最後を迎えられたかと言えば、お世辞にもそうだとは言えない。当施設にも緩和ケアの需要があったにもかかわらず、供給できていない事実がある。
 これらのことから緩和ケア病棟での緩和ケアは理想ではあるが、今現在緩和ケアを必要としている患者さんが一般病棟にたくさんおられる限り、「緩和ケア病棟ができるまで待っていてください」とは言えない。一般病棟であっても十分な緩和ケアを提供していかなければならないと考えられる。
 淀川キリスト教病院の恒藤暁先生の講義によると、緩和ケアの目指すものは「?全人的ケアがある。?QOLの向上がある。?チーム医療がある。?継続ケアがある」ということである。当施設ではそのどれもが著しく不足している。
 まず私が最も気になっていたのは症状コントロールの不足である。そのなかでも疼痛コントロールの不足である。私が無知であったのは、口腔外科領域の疼痛はコントロールすることが難しい痛みであるということを知らなかったことである。つまり、よほど心してかからなければコントロールが難しいということである。疼痛コントロールに代表される症状コントロールに関してはかなりの時間を割いて講義があったので、知識としては多くのものを得ることができ心症状コントロールに関しては知識不足・勉強不足につきる。

 

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