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 このプロセスを通し、スタッフ側には死の問題から逃げ出さずに、ともに引き受けていこうとする覚悟が必要である。また患者のあるがままを受け止め、その感情を理解していくためにはコミュニケーション技術が必要とされる。
 末期患者を抱える家族の悩みは、看病疲れ、患者を取り巻く人間関係、経済的問題、気持ちの葛藤、予期悲観など様々な問題があり、それが引き金となり精神的問題が生じてくる。
 これらをケアするには、患者と同様に十分話を聞き精神的援助をしていく必要がある。

遺族ケア

 どんな遺族でも、「もう少し世話をしてやれば良かった」、「十分に世話ができただろうか」と思うことは多い。
 このようなとき、ケアにかかわったスタッフが家族とともに患者の思い出をたどり、できるだけのことはやったということを確認することは、残された家族にとって深い心の癒しになることがあり、手紙のやりとりや遺族会を開き、継続的にケアしていく必要がある。

入棟基準

 緩和ケアの基本的理念に則り、各施設に合う基準を作れば良い。

ボランティアの条件と教育

 緩和ケア病棟の特殊な状況において、得てして起こりがちなケアの質の固定化、閉鎖性に、ボランティアは新しい人間関係をもたらし、ケアの内容を発展させ、施設に社会性をもたらし、患者や家族にコミュニティをもたらすことができる。ボランティア活動の性質には自主性、福祉性、無償の愛、継続性がある。
 条件として、心身ともに健康な人、精神的に自立している人、経済的に自立している人、家族の理解がある人、常識的な人。
 教育について、特殊な病棟の性質上、最低限の教育は必要であり、内容としてはボランティアの目的、末期癌患者の身体面、心理面ケアについて、家族ケア、コミュニケーション、悲観、スピリチュアルケア、介護など実習も含む教育が必要となる。

研修を終えて

 ホスピスとは、「いかに死ぬか」というより、死に至るまでの「生」をいかに支えていくか、すなわち人生の終末を「いかに有意義に生きるか」を援助するところだと思います。ここでは、患者さん一人一人がかけがえのない存在であるとの認識から、それぞれの固有性を尊重しつつ、最後までその人らしく生きぬくことができるように援助することが、究極の目的になると思います。そのケアの土台となるものは、「症状コントロール」と「心のこもったケア」であり、それを支えるものは十分なコミュニケーションであると思います。この目標達成のためには、「患者の病気」を見るのではなく、「病を持った人間」という全人的視点が特に重要であり、その姿勢は、ともすると「病気」を中心に治療する現在の医療全体に一石を投じているものとなっているのではないでしょうか。
 現代医学が果たしてきたもの全てを否定しているわけではありません。しかし、どのようにしても回復不可能な患者さんにも最後の最後までムチ打つような治療をしていることも事実です。ホスピスとは、基本的に患者および家族と十分に納得するまで話し合いを行い、患者がどのように生きていきたいかを知り援助するという実践の総称であると考えます。
 ホスピスにおいて大切なことは、一人の人の存在の背景に、全人的関わりを持つことが重要な要素になると思います。全人的に患者さんを把握するために、精神的苦痛をすみやかに改善し、一人にしない、淋しくさせないということを約束し実行する。このような関わりを通してお互いに心を通わせるところがらスタートするのではないかと思います。

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