白衣を脱いだ普段の自分で
愛知県がんセンター
川瀬洋子
考え方は
がん医療において緩和ケアはがん病変の治療と等しく重要であり、この2つはがんの診断のときから死に至るまでの全治療過程で併用すべきものである。どちらに力点を置くかは、個々の患者のニーズに応じて決めていく。がんが診断された初期にはがん病変の治療に力点が置かれ、治癒の望みがなくなるにつれ、いつのまにかがん病変の治療のニーズは小さくなり緩和ケアへと力点が移行していくと。このことは、緩和ケアはホスピス病棟や緩和ケアユニットなどの専門病棟の中でのみ行われればよいのではなく、一般病棟の患者にも通院患者にも在宅患者にもニーズに応じ実践されるケアであることを示している。療養中の全期間においてがん患者の生命力を最大限に引き出し、患者の生活に責任を持つ看護婦の働きには緩和ケアと大きな重なりを持って発展していくこと。
何を観ることができますか
具体的に緩和ケアの対象となる末期患者への配慮の視点を5つに整理してみた。
?基本的要求への配慮
人間として生きていくうえで基本的に満たされ、保障されなければならない欲求への配慮で、例えば食、排泄、清潔、睡眠、活動などにおいて苦痛に感じていることへの緩和をめざすものである。
?身体的側面への配慮
身体的苦痛として感じられるあらゆる面への配慮で、具体的には痛み、食欲不振、全身倦怠感、悪心、嘔吐、呼吸困難、便秘、下痢、発熱、不眠、咳などの身体症状の緩和をめざすものである。
?内的側面への配慮
精神的、宗教的、実存的な苦痛、苦悩への配慮で、例えば死への不安、恐怖、死後の世界への不安、人生の意味や目的に対する疑問、罪過への呵責、孤独に対する恐怖、自分が消滅してしまうことへの恐怖、人生や仕事を不完全なまま終えることへの無念さなどに対する配慮である。このような苦痛や苦悩に対しては、緩和するというよりも解決されなければならない問題や課題の方が多いと考えられる。
?社会的側面への配慮
社会や家族の一員として生きている人間にともなうさまざまな苦痛や苦悩への配慮である。具体的には家庭の経済問題、家族の将来、子供の養育、仕事、職場の問題、家庭内の人間関係、財産分与や相続に関すること、葬儀にまつわる問題などへの配慮であるが、これらの問題に対しても、緩和するというよりも解決されなければならない事柄のほうが多いと考えられる。解決されることにより気掛かりがなくなり、安心が得られるのであれば、結果的には緩和ケアということになるのかも知れない。
?生活面への配慮
生活面への配慮とは、人それぞれの価値観、信条、人生観、趣味、習俗、習慣、教育環境、家庭環境などの違いから生じる生活上の苦痛への配慮である。特に入院生活を強いられる末期患者においては大切な配慮であるが、個人差が大きいものでもある。例えば消灯時間、入浴時間、食事時間が決められていたり、基準給食や基準寝具など画一的なスタイルや取り決めを強要されることにともなう苦痛などへの緩和ケアである。
末期患者に接したとき、このような視点にそって相手の苦しみ、苦痛、苦悩が何なのかを判断でき、看護者としてできることと、できないことを判断できると同時に、緩和ケアにおいてはチームアプローチが大切であることを自覚できる看護者であること。
前ページ 目次へ 次ページ