日本財団 図書館


 他の部署・スタッフの見学・お話から感じたことは、どのスタッフもその病院における自分の役割をよく認識されており、専門性の追求がされているということ。病院全体が隠者さんのために」と考えながらシステム化がすすめられている、ということである。システム化・合理化・専門化はどの病院でもされているだろうが、それが患者さんを抜きにしてすすめられてはいないだろうか。その結果「冷たさ」を生み出したり、患者さんへの負担を増やしたりしているのではないか。「患者さんのために」を第一に考え、さらに職員の情熱を加えられた三方原病院には「冷たさ」はなく、確かに「暖かさ」があふれていた。
 患者さんからはまず第2週目の月曜日の朝、当然のこととはいえとても大きなことを改めて教わった。第1週目に婦長さんから患者さんへの紹介をしていただいた。その時にある患者さんが「私と話すときは死という言葉を避けたり変に気を使ったりしないでください。またお話ししましよう」と言ってくださりとてもうれしく思い、「受け持ちになったらたくさんお話させていただこう」と思っていた。第1週目は受け持ちにはならなかったので「来週時間があるときお話しよう」と考え、そして月曜日を迎えた。その患者さんはもうおられなかった。ターミナルの患者さんにとっての「今」の大切さを思い知らされた。
 ある患者さんからは「今月のはじめごろはお腹がはって苦しくて痛くてもう駄目だと思っていた。とても今月中はもたないと思った。でもたくさん痛み止めを使って今は全く痛みもなくてとても調子がいい。とても末期の癌だとは思えない。癌が治ってしまったのではと思ってしまう。こうして年が越せたら後2ヵ月、3ヵ月と考えるようになるんだろうなあ。そんなことを考えながら、いやそんなに欲張っちゃいけないとまた考え直したりしている」、「痛みがあるとやっぱりいけない。こんなに痛いんだったら生きられない。もう死んだほうがいいと考える。生きようという気がなくなってしまう」とのお話をうかがった。講義でもきいていた話ではあったが、生の患者さんからうかがう「真実の言葉」であり、すごい重みと迫力があった。痛みや腹満などの症状は患者さんにとって「生」を脅かすものであり、それがコントロールされることは「生きる希望」がもてるということであると患者さんの口から目の前で教わった出来事であった。
 実習最終日に千原先生からお話をうかがう機会をもっていただいた。そこでもたくさんのお話をうかがい、多くのことを学んだ。その中でも特に印象に残ったことがある。先生に緩和医療に進まれた動機をうかがったときに「自然の流れで」と答えられた。末期の肺癌の患者さんに携わることが多くそれで自然にそうなった、とのことであった。そして「緩和医療を特別なものと考えず、大きな医療のある一分野と考えたほうがいい」と続けられた。そして緩和ケアの分野で働くうえで大切なこととして「まず働くということは自分の生活を支えるということ。そのうえで自分の理想を成し遂げる。緩和ケアで最低限やらなければならないケア(苦痛をとり、精神科的症状をとる)をやる。そのうえでここまできたらいいなというケアをする」と教わった。また、自分の施設での治癒を目指した医療から緩和ケアへの切り替えの難しさについて相談したところ、「患者さんにとっての善は何か、良いことは何かということを考えれば、症状コントロールになっていく」というシンプルかつ納得のいくお答えであった。
 2週間実習を通し、実習施設の方の「広く浅くの実習で全体の当院における流れが分かってもらえたら」との配慮もあり、ホスピスでされている緩和ケアについて多くのことを学ぶことができた。患者さんとの深い関わりがもてなかったことは少し残念ではあるが、2週間という短い実習期間ではその両立は難しい。しかしその中でも患者さんからも多くのことを学んだ。実習の目的はすべては果たせなかったが、それ以外のそれ以上のものも収穫としてあった。それらの中から自分の施設でも取り入れ、生かせるもの、そのまま取り入れることは難しいが参考にしたいことなどがあった。「ホスピスでなくてもターミナル期を迎えた患者さんには緩和ケアを受ける権利があり、医療者であれば緩和ケアをいつでもできる知識を身につけておく義務がある」という私の研修参加の動機となった思いをさらに強くした実習となった。

 

前ページ    目次へ    次ページ






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION