少しでも早く、患者の苦痛を緩和するべくチーム全体の取組が感じられた。医師も朝の申し送りやカンファレンスに毎日参加し、それからの情報はプライマリーナースに相談したりして、適宜、薬剤を変更したりしていたことは私にとっては驚きであった。
ケアの工夫としては、口腔のケアとして個々の患者にあった口腔ケア剤を使用していた。オピオイドの副作用で起こりやすい便秘については一般的な下剤の使用もあったが、ベニスク茶という漢方のお茶を活用していた。これは、腹痛も強くなく良い効果が得られ、薬という感じがなく眠前に150〜200?くらいを飲むそうで、患者にも好評とのことであった。入浴においては、患者の部屋から脱衣でき入浴台で寝たまま風呂まで運んでもらえ、体力をあまり使わずして入浴できる点であった。これならば、かなり病状が進行しても患者の入浴の希望がかなえられると感じた。
精神的問題はプライマリーナースが中心にスタッフ全員で取り組んでいた。問題をプライマリーだけに負担させず、カンファレンスで検討したり、精神科医に依頼したりしている。
スピリチュアルケアはチャプレンさんが毎日全員をラウンドし患者の話を聴いている。六甲病院は公的病院であるため、宗教色は前面に出さず、心のケア担当ということで活動している。また、必要な患者(キリスト教)に対しては宗教の話をするそうである。緩和病棟に入院してくる患者はある程度は病気を受容しているかもしれないが、やはり死に対しての恐怖はなくなりはしない。チャプレンさんはそんな患者の心のケアを行い、少しでもやすらかに死を迎えられるよう援助している。
末期患者とのコミュケーションをとる前にスタッフは死の問題から逃げ出さず、共に引き受けていこうとする覚悟が必要である。そのためには自分なりの死生観をもっている必要がある。それをもった上で、患者のあるがままを受け止め、感情を理解していかねばならない。常に余裕をもって聞く姿勢がなければならないし、患者と同じ高さの視線で傾聴し、理解する態度で接していかねばならない。人間は誰でも自分を大切にしてくれれば心地よいものである。大袈裟にいえば、「あなたを一番大切にしています」というくらいの態度で接していかねばならない。六甲病院では「人生にとって最も大切な時期にかかわらせてもらっている」という気持ちでケアしているそうである。
家族ケア
家族ケアは入院時にすでに始まっていると思った。患者・家族を含めた医師・看護婦による面談後、再度家族とプライマリーナースによる面談を行う。家族が抱えている問題はないか明らかにするとともに、患者を取り巻く家族に対しても援助者としての役割を持っていることを家族に印象づけている。それにより、信頼関係も生じてくると考える。
また、患者の病状の悪化に伴い家族の身体的・精神的問題は起こりやすい。研修中にあった例として、患者の病状悪化に伴い患者が妻に「できるだけ側にいてほしい」希望が強くなった。妻以外のサポートをするものは遠方で妻一人に負担がかかるため、カンファレンスで問題提示し妻の負担を減らすべく対策を話し合った。また、妻の気分転換のため、妻の本職であったアナウンサー時代からしていた朗読をお茶会で披露してもらった。患者である夫も久し振りの朗読に聞き入り、そのあとのお茶をのみながらの雑談の中でしきりに妻をほめていた。朗読を行った達成感や夫からのねぎらいの言葉などで気分もリフレッシュした様子がうかがえた。
このように時宜を得た家族ケアが行われていた。なかなか一般病棟では難しいことだが少しでもできることはしていきたいと思う。
臨終時のケア
患者が亡くなる前より遺族ケアは始まっているため、納得のいく看取りができるようスタッフは配慮している。死が近づいている家族と情報を分かち合い、どうすることが最も患者にとって良いかを共に考える態度で医師・看護婦それぞれ面談を行っていた。家族がまじかに迫っている患者の死を混乱なく受容できるよう援助していた。患者の死後、あわてて部屋をあける心配はないことや必要あれば病棟でお別れ会ができることなど説明し、落ち着いて看取りができるよう配慮していた。
前ページ 目次へ 次ページ