背部、腰部をさすりながら、側に寄り添しい、息苦しさのため、会話を多くはもてなかったが、「怖い…」と話した。初めて、死を意識して自分の感情を表現した時であり、沈黙であってもその場にいることで、患者は安心し、何かを感じたときにすぐに話せる場があり、その言葉、思いを聞け受け止めることができたといえる。翌日、塩酸モルヒネの持統皮下注の効果があってか、呼吸苦は弱冠軽減したと話した。患者の今の感情にそって、傾聴的態度で接することとした。「聴診器が怖い」と話されたことで、Ns.が敏感に察知し、死に対してどう思っているか今の心情を引き出し、共感を示していた。患者の心の奥底にある死に立ち向かわなければならない恐怖感を表す言葉であり、その患者の出すサインを見逃さず、踏み込んで聴き、患者に共感することが大切である。死に立ち向かっている患者から逃げないで、話す内容に対し無理に答えようとするのではなく傾聴し、Ns.が感じたことは伝え、医療者は決して逃げたりせず側にいること、一緒に立ち向かっていくことを示していくことを学んだ。
「昨日は怖かった。苦しい日だった。今日は元気やろ」と自分に言い聞かせるように話しており、清拭を促すと応じた。昨日の感情にそった対応があったため、根本的な霊的な問題は解決しないが、幾分、精神的には安定していたと考えられる。患者は少しずつ死を意識してきているが、どこかで生への希望をつないでおり、患者がありのままの感情を表出できる「受皿」があると言うこと、決して孤独にはさせないことを示していくことで少しでも心の負担を担っていくことができるのではないかと考える。
実習まとめ
実習施設は、総合病院との併設であり、一般病棟により近い緩和ケア病棟といえる。総合病院の利点を生かし、他科との連携を密にしながらも、家庭的な雰囲気を大事にしながらケアを提供している。
PCUを生活の場としてとらえ、患者の安楽を第一に考え、患者を中心に一日の業務がながれている。看護として、当然行われなければならないことが一般病棟では難しかったがここでは行われている。Ns.:Pt、1:1.5という看護体制の下に、いかに患者の安楽を考えながら必要なケアをしていくか、患者にとって今何が大切かスタッフがよく把握しながら取り組んでいる。プライマリーナーシングとチームナーシングのそれぞれの利点をうまく生かし、チーム全体で、支えている努力がなされている。
また、看護婦は、患者に最も身近にいる存在であり、患者の状態の変化を察知し、あらゆるサインを見逃さず、他スタッフに看護上の問題点を情報提供し、看護チーム全体が一貫したケアができなければ、患者、家族をサポートできないと考える。患者の病状の変化を見逃さず、うまく外泊ができたケースでは、家族の理解を得るため、看護婦が中心となり、医師、家族の話し合いの場がもたれ、外泊する上での問題点について検討が成され、患者と家族が掛け替えのない時間を一緒に過ごすことができた。チームが同じ目標に向かって各々の役割を十分に生かし、問題解決をしていく過程をみることができた。チーム全体で情報を共有し、意見交換し、患者や家族が望むことを達成するために、看護婦がチームの調整役となる役割があるといえる。患者が何を大切にしているか情報を得るために、家族との面談も多く、看護婦が積極的にかかわっている。
受け持ち患者2例を通しては、傾聴的態度について、側にいることがケアとなり得ることを学ぶことができた。その根底には、看護婦は、患者にとって安心できる存在だということを示し、患者との信頼関係を保つ努力をしていることがあげられる。ケース1については、医療者として正しい情報を提供していくことは必要であるが、医療者の価値観を押しつけるのではなく、患者の意思を尊重し、個別性を重視していくケアを学んだ。ケース2については、呼吸困難の症状コントロールは難しいが、いつでも患者が話したいときに側にいることで感情を表出しやすいようにし、患者の心の叫びをキャッチし、感情に沿った対応をしていくことで、霊的な痛みは消えることはないが、精神的な支えになりうることを学んだ。
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