日本財団 図書館


2つの事例が教えてくれたもの

医療法人惇慧会外旭川病院
西村真智子

 

受け持ち患者について

ケース1

《プロフィール》
 55歳 男性 RK末期 膀胱転移 人工肛門造設。膀胱浸潤により、尿道痛があることにより、有効な除痛法がなく、日常生活が制限され、ベッド上で過ごすことが多い。病名告知はされているが、予後告知はされていない。疼痛に対しては、MSコンチン(90?)3×1、リップフェン1A×2、リンデロン(0.5?)を使用している。性格は、几帳面で我慢強い。キーパーソンは妻で、娘と3人暮らし。

《実践と考察》
 膀胱浸潤のため、尿管が挿入されており、月に1回のカテーテルの交換日に、処置前、処置後を通して、関わることができた。処置前には、塩酸モルヒネのレスキューが施されたが、処置後、カテーテル挿入による圧排痛、膀胱内のアイテルが陰茎部から上手く排泄されないことによる物理的な痛みに苦しんでいる姿を見て、有効な方法がなく、無力感を感じたが、痛みを少しでも共感できないか、援助できることがないかと考え、側に寄り添うことにした。

 初めのうちは、患者も遠慮がちであったが、側にいても拒否することもなく、看護婦に気を使いながらも、右下肢をさすってほしいと要求され、下肢マッサージをしていくうちに、次第に鎮痛剤、鎮静剤の効果もあり表情が穏やかになり入眠していった。薬に頼りたくない、我慢強い患者に対し医療としては有効な方法はないが、最も苦痛であるときに1人にさせないで側にいることが、精神的な支えとなりケアになるといえる。

 尿管挿入後より、尿道痛により、塩酸モルヒネのレスキューの回数が増え、毎食時となった4日目、MSコンチンの増量について担当ナースに相談し、患者に働きかけた。疼痛のため、日常生活行動が制限されており、以前のように車椅子で散歩に行けること、または、車椅子に座っていられる時間を長くすることを目標に働きかけたが、オピオイドの効果が十分に得られないこと、同じ体動によってもその時によって痛みの強さが違うことがあり、「今のままでよい。この痛みは、何しても消えないのだから仕方ない」との返答があった。患者の心理的背景には、鎮痛剤を増量することは、病気が悪化していることを嫌でも認めなければならない、我慢できる痛みだから大丈夫と自分に言い聞かせていると考えられている。「働きたいからといって、他人に迷惑をかけてまでしたいとは思わない」と話しており、患者の生きる姿勢を感じさせられた言葉であり、医療者としての価値観を押しつけるのではなく、本人の意思を尊重した働きかけをすることが大切である。

ケース2

《プロフィール》
 48歳 女性 左MMK 左肺転移 癌性胸膜炎小脳転移。病名告知、病状告知はされている。化学療法、放射線療法施行後、PCUに入院。胸部腫瘤が皮膚上に突出しており、増大傾向。胸水貯瘤により、呼吸困難があり起坐で過ごしている。酸素2.5リットル流量中。時々腹痛を訴え、レペタン水を頓用している。夫、娘さんの4人暮らし。ペット犬を可愛がっている。性格はハッキりしている。

《実践と考察》
 日毎に病状が悪化してきており、呼吸苦も強まるにつれ、死への恐怖感を意識するようになり、家族がいても看護婦に側にいてと訴えるようになった。

 

前ページ    目次へ    次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION