この評価においては多くの解決すべき問題がある。この意味で今後新しい評価基準を作成する場合、実構造物におけるデータを収集することは非常に意義がある。そこでここでは、文献11)のアクアポリスの動揺調査について説明する。
浜中10)らはアクアポリスの入場者に対してアンケート調査を実施し、アクアポリスの動揺を快適性の面から評価した。その結果、図-3.4、図-3.5に示すように比較的強い揺れを感じる人の割合が多かったこと、また、図-3.6に示すように実測された加速度が後藤ら14)およびISOによって提示された評価曲線より大きくなる場合があることを指摘し、アクアポリスに長時間滞在する場合、快適性に関してなんらかの影響を生ずることがあるとしている。
一方、文献13)でもアクアポリスの動揺を実測し、その動揺は比較的小さく適性にはあまり問題はないとしている。この2つの文献で結論が異なるのは次のような原因によるものと考えられる。
?文献11)において実測した時アクアポリスは浮遊状態にあったと考えられる(これは文献に記されているきっ水の深さ、図-3.6に示される卓越周期によって確認された)。一方、アクアポリス(セミサブ構造物)本来の半潜水(セミサブ)状態になるとその時の加速度は浮遊状態の時の約半分あるいはそれ以下になる。すなわちアクアポリス本来のセミサブ状態においてはそれほど大きな加速度は生じないと考えられる。
?文献13)などの造船の分野では一般にISO2631/3の乗物に対する評価基準(図-3.3参照)を念頭におく傾向があると思われる。一方、文献11)など建築の分野ではISO/6897の建築物に対する評価基準(参考資料の図-4.2.1-1参照)を用いる場合が多いと思われる。図-3.7には後藤14)による居住性検討限界曲線を示す。図-3.6の曲線は図-3.7から引用されたと思われ、ここでは2つの図の関係について考察する。図-3.6の知覚閾曲線は図-3.7の快適性検討限界曲線-1に、船酔い限界曲線は快適性検討限界曲線-2にほぼ対応する。
ちなみに後藤による快適性第1限界とは人々が振動を知覚し始める時、快適性第2限界とは船酔い症状を呈する人が現れ始める時であり、この船酔いの定義はISO2631/3の定義(約10%の人が船酔いする時)とはかなり異なっている。図-3.6の知覚閾曲線はいわゆるcomfort boundaryに、図-3.6の船酔い限界はいわゆるreduced comfort boundaryに、またISO2631/3の船酔い限界はいわゆるsevere discomfort boundaryにほぼ対応すると考えられる。このように造船関係(ISO2631/3)で想定している居住性の限界と、建築方面で想定している限界とは、内容がかなり異なり、このために前途のような評価の違いが生じているものと考えられる。
以上の検討から乗心地に対する限界の考え方を表-3.2のように区分できる。