第3節 船舶の総トン数
総トン数は、わが国における海事に関する制度において、船舶の大きさを表すための主たる指標として用いられる指標である(トン数法5条1項)。
総トン数は、国際総トン数(注1)の算定の例により算定した数値に、当該数値を基準として定める係数を乗じて得た数値にトンを付して表すものとされている。
船舶の総トン数の測度は、管海官庁が実行するのであり、この結果に基づき登簿船としての手続をなすのであるから、そのトン数の決定は行政処分として決定力を有し、その取消行為がない限りその効果は維持されるものである。したがって、決定された船舶の総トン数は、いわゆる公信力を有すると同様に解せられている。
船舶の総トン数は、船舶の個性及び同一性の識別の最大要素であり、船舶が登記及び登録をなされ、又は船籍票の交付を受けるための基礎事項となり(法4条、20条、細則8条、17条ノ2・1項11号〜13号、船籍政令1条、2条参照)、船舶に関する法令の適用の標準となる(注2)のみならず、諸般の課税及び手数料の基礎となり、また商取引にも利用される。
(注1) (社)日本海事代理士会発行「船舶のトン数の測度に関する法律の解説」参照
(注2) たとえば、船舶安全法は、日本船舶(櫓櫂のみを以って運転する舟であって主務大臣の定める小型のもの等を除く。)に対して法定設備を施設すべきことを規定しているが、政令で定める総トン数20トン未満の漁船に対しては当分の間適用を除外している(同法2条、32条等)。
船員法は、総トン数5トン以上(湖川及び港のみを航行する船舶並びに政令で定める総トン数30トン未満の漁船を除く)の船舶に対して適用する。船舶職員法は、船舶職員として船舶に乗り組ますべき者の資格を船舶の総トン数、船舶の用途及び航行区域により区分している(同法18条等)。漁業法(昭和24年法律267号)は、漁業等の許可を受けるべき漁船の大きさを総トン数をもって基準とする(同法66条)。
第4節 船舶所有者
船舶自体の個性を示すものではないが、船舶の所有権は、船舶の同一性を識別するため重要な要素をなすことは当然であり、船舶法における諸手続は、すべて船舶所有者に対して要求せられる。
船舶所有者とは、広義においては単に船舶の所有権を有する者をいい、狭義においてはその所有する船舶を海上企業をなす目的をもって航海の用に供する者をいうのであるが、船舶法上の船舶所有者は前者をさすのである。すなわち、船舶法の規定は、日本船舶の公証及び船舶自体の把握を目的とするものであり、また船舶による水上航行の態様については関知せず、船舶の共有の場合における船舶管理人に対して船舶所有者に関する規定(法31条の罰則の適用を除き)を適用することをもなさないからである。
船舶の所有の態様は、自然人による所有と法人による所有とに分けられ、また単独所有と共有とに分けられる。そして、船舶の共有者とは、広義においては単に船舶を共有する者をいい、狭義においては船舶を共有し、かつ、海上企業に利用する者をいうものとされるが、船舶法上の共有とは前者、すなわち、民法上の共有をさすものである。後者は、商法における概念であり、商法上においては、さらに船舶共有者は船舶管理人を選任することを要するものとする(商法699条1項)が、船舶法上船舶管理人は直接関係はなく、ただ船舶登記規則に定める手続により、船舶管理人に関する登記をなすことを要するのみである(商法699条3項)。しかし、商法上、船舶管理人の制度を設けた趣旨からして、船舶安全法、船員法、船舶職員法等の海事公法においては、船舶所有者に関する規定を船舶管理人に適用するものとする。
なお、船舶法上の諸手続をなすに際して、船舶所有者に関して留意すべき事項は、各章において述べることとする。