海洋における油流出へのバイオレメディエーション技術の適用は、油分解作用を持つ微生物を活性化させることで生物分解のプロセスを速め、汚染を浄化することを目的とする。
これまでの海洋におけるバイオレメディエーションの研究では、油汚染された海岸線に、窒素などの栄養塩をまき、現地の微生物の生分解のスピードを速めることに焦点がおかれてきた。
今後の課題は、より効果的な栄養塩や微生物製剤の開発などによって、異なる環境下(沈澱物、漂流している油面などの浄化を含む)で、バイオレメディエーションの効果をさらに高めることである。
(1)バイオレメディエーションに影響を及ぼす要素
?油の性状
バイオレメディエーションを適用する前に、流出油の生分解・風化の程度を把握する必要がある。
代表的な風化現象とその問題点は、以下の通りである。
・蒸発 :流出後すぐに起こる。低中分子量で沸点の低い原油が揮発する。残存油は濃縮され、重量、粘度も増加する。
・溶解 :芳香族成分などの比較的水溶性の高い成分が溶解する。
・ムースの形成 :エマルジョンでできる塊であり、沈澱したり海浜に漂着する。ムースを形成してしまうと、油分解微生物への酸素の供給が断たれ、生分解がより困難になる。
?微生物
海洋の生物相には、多種多様の炭化水素を分解する微生物が存在する。バクテリアがもっとも多く、カビや酵母がそれに続く。シアノバクテリアも、速度は遅いが炭化水素を分解するものがあると言われている。
従来の研究は、芳香族炭化水素の分解にもっとも力が注がれてきた。1、2、3環の芳香族分解菌は数多く報告されており、4、5環芳香族を分解できる菌もいくつか報告されている。
?栄養塩
海洋環境は一般に貧栄養条件にあり、窒素・リンの量によって微生物の成長が制限されている場合が多い。
これを補い、微生物の活動を活発化させることが、栄養塩を使用する目的である。さまざまな栄養塩の残存性、溶解率、散布方法などをテストする試験が行われている。
また、酸素供給量が少ない地域や、富栄養地域では、栄養塩をまいても微生物の活動が活発化しないことがわかっている。
バイオレメディエーションには、一般に栄養塩または微生物製剤(栄養塩と微生物の混合物)が使用されている。