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前章までで、世界及び海外各国の環境教育について解説することができた。特に4章において指摘したように、環境教育の中心カリキュラムや指導者養成システムの整備が、海外に比べ、我が国では大変立ち遅れていることが、今回の研究で改めて明らかになった、

そこで、本研究のまとめとして、ここで、環境教育のコアカリキュラムの骨子となるものを案として提示する。また、我が国の教育水準、一般的な環境意識に照らしてもっとも適切と思われる指導者養成プログラムの概要案についても提案する。

 

5-1 環境教育の骨子

 

私たちは、今、経済を優先させた社会の中にいます。20世紀は、人類が競争による大量生産と、大量消費を始めた「経済の世紀」でもありました。身のまわりには、豊かなものに満たされ、50年前には予測不可能だった、便利な暮らしを手に入れることができました。

しかし一方で、このような豊かな暮らしは、持続不可能であることが次第に明らかになってきました。たとえば石油はあと40年あまりで掘り尽くされてしまうと試算されているし、地球の温暖化、森林伐採や収量優先の農業政策による表土の喪失から世界で起こっている砂漠化。どの問題を取っても深刻であり、私たち現代の市民に、今までとは異なった価値基準で「持続可能な社会」へと世界の仕組みをデザインし直す義務が生じてきました。

 

5-1-1 滅亡した過去の文明が語る環境問題

過去の文明が滅亡した世界の遺跡を訪れると、ナイル川の恵みと豊かな森林があったエジプト文明、チグリス・ユーウラテス川に支えられたメソポタミア(現在のイラク)文明、そして高度な文化があったことが次第に明らかになってきたイースター島、どこもかしこも、木が一本も生えていない、砂漠のような風景が、今、広がっています。

木を切ることは、生活の材料、燃料、畑の開墾による食糧確保など、人間が生きていくために、最も手軽な開発の手段だったに違いありません。しかし微生物が住み、養分ゆたかな「表土」が育まれる森林をすべて切って、畑にしても、風雨の強いところでは表土は数年も持たずに根こそぎ流れ去ってしまいます。人は、さらに広くまわりの森林を伐採し、ついには隣国を攻め落とし、武力によってどんどん勢力を拡大していきましたが、ついに資源が破綻したことが、滅亡の最大の原因だったと考えられています。持続「不可能」な社会の仕組みは、こうした形で破綻する運命にあるのです。

過去の文明の滅亡は、交通や輸送手段の限界によって、特定の地域の中で起こりました。しかし貿易や交通手段の発達した現代社会は、身近な自然をいくら壊滅的に破壊しても、経済力さえあれば、お金の力でまだ自然が残っている地域から資源が買えてしまうという、危険な構造を持っています。私たちの社会は、生命の基盤としての自然の大切さに「麻痺」したまま、取り返しのつかない破滅の道を歩んでいます。交通が発達している現代社会で、次に文明が滅亡するときには、世界規模の広い範囲を巻き込んだ破滅が起こるからです。

 

 

 

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