普通教育に関しては、最も差し迫った問題は専門知識の欠如ではない。当節は、宇宙物理学者一人一人の知識を理解する科学者が最低10人はいて、少なくとも100人がその10人の知識を理解している、といった具合である。しかし、一般大衆に届く途中のどこかで、その知識の鎖が切れていて、その結果多くの人が、切迫した環境危機という憂鬱の中に潜む不合理な力に翻弄されている。21世紀に入るに当たって我々が直面する巨大な試練は、環境が成長する道筋を決める基本的な相関関係を理解する適切な機会が、もっと多くの市民に与えられるようにすることである。多くは個人の活動の力で決定されるのである。
(6)個人と社会
社会が人間の手で複雑に作られていけばいくほど、また変化のペースが速くなるほど、個人が直接行動の効果を信じ、また直接行動を起こす真の機会を与えられることが重要になってくる。しかし同時に、全体に対して責任を取るどこかの誰かがますます必要になる。
対立して見えるいろいろな傾向も、実際はそれほどではない。個人個人が毎日行なわなければならない決定の多さを考えれば、彼らは互いに依存せざるを得ない。少なくとも他への信頼が結局は妥当な見返りを生んでいる限りはそうである。もしすべての契約が無視される可能性があり、すべてのドアをダブルロックしなければならないとしたら、何千もの自発的な契約で成り立つ市場は難しすぎて管理できない。したがって将来は、社会の最も重要な機能の一つは、信頼の土壌を作ること、つまり助言と教育の役割を担うことになると思われる。
(7)人類の生存のための道具
地球の人口は今後50年間に2倍近くになると予想されている。現在の55億ではなく、100億の人々が、周囲40,000キロメートルしかない一塊の地球上で生活し生き延びることを学ばなければならなくなる。別の言い方をすれば、人類は今後50年間に今より2倍革新的になることを学ばなければならない。人類は今後50年間にこれまでの全歴史で成し遂げてきたのと同じことを成し遂げなければならないのである!
生存のための道具となるのは、変化する世界の中で人間が生き延びるのを助ける進化によって研ぎ澄まされた、人間の脳である。ヘビは毒牙で、ヤマネコは爪で、自らを守る。人間の場合、新しい状況に対処する新しいアイデアを得たり生み出したりすることを望める唯一の方法は、あえて人間の脳の全能力を使うことだけである。
(8)未来への4つのビジョン
我々は未来にどうアプローチすべきか
多くの人々は、90年代は環境への脅威に対処できるかどうかを決める決定的な時だと感じている。長期的永続的な前進を確保するような決定が行われ、方向性が選択されなければならない。一つ一つの決定および選択されたそれぞれの代替案は、我々が将来住む社会の種類に影響する。