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対し、全く過大な要求をしていることになるでしょう。学校での環境教育によっていくらかのことを動かせるとしても、それにはやはり限界があります。

私達は、私達の国に、ヨーロッパに、世界に見合った政治的決断を必要としています。しかし又、科学の進歩、新しい科学技術の発展、そしてその技術の結果の評価をも必要としています。

エコロジーの分野には、科学と技術の一層の進歩によってのみ前進の可能なことが、数多くあります。この点に関して、とりわけ「若者は研究する」という生徒コンテストが既に、このような環境保護と科学的、技術的進歩との関係を明らかにする、注目すべきすばらしい試みであると、私は考えております。技術的、科学的知識とノウハウを、エコロジーに創造的に役立てようという関心が、こうして若い人たちの中に早くから芽生えるわけで、そういう理由からも、私はこの生徒コンテストを高く位置づけております。学校は、コンテストへの参加を決めた生徒達の援助をします。それで良いのです。

学問的な経歴は、学校で準備されなければなりません。専門家や一流の科学者をことさら悪者に仕立て上げることは、私達にとってプラスになりません。しかし、知識が社会に対して負う義務については、しっかりとこれを要求していかなければならないでしょう。

確かに、科学や技術の進歩は今日、全人類の為、総ての神の被造物の為に、自己目的の進歩であることがもはや許されなくなっています。「純粋なる理論」はもうとっくに、無害なもの、無実潔白なものではなくなっているのです。科学と研究は、ハンス・ヨナスの言葉を借りれば、「自発的な手綱によって」、「自分の力が人間にとって災いとなるのを抑える」倫理を必要としています。

そのように理解された場合、学問やテクノロジーの進歩は、私の確信するところによれば、産業社会の必要としているエコロジー上の方向転換にとって、その前提となるものなのです。若い人達が将来、このように高度な活動や職業に専門的知識をもってつけるよう、教育、養成していくことも、学校の任務のひとつです。

 

?\.結び

地球の未来に対する責任から、私達は逃れられるものではありません。生態系の上で既に色々なことが起きてしまったことは事実ですが、しかしまだ、私達のすべきこと、私達にできることはたくさんあります。若い人達の環境意識や環境保護運動が高まってきていることは、私に希望を与えてくれます。破滅か、パラダイスのようなユートピアか、というあれかこれかではなく、もっと多くの末来像の存在することが、ここに具体的に示されているのです。ネガティブな考え方、ペシミズム、非合理主義、更にはシニシズムが、この世界で何かを良い方向に変えたことなど一度もありません。私達に必要なのは、理性に裏打ちされた、ポジティブな前進です。

事態の進展を質的に転換する為の好機はあるのです。耐久力の要求、長時間にわたって思考し続け、未来にも目を向けて決定を行うことの必要性、そうしたことが、人間の活動や創造に対する刺激となり、これを促すことでしょう。そしてそうしたことは、私達が学校で何を学ぶか、或いは、私達がそこでどのように働き、又生きていくか、ということをも、決定していくことでしょう。

 

 

 

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