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(5)低地帯   <標高50m以下>

県土の49%を占める地域であり、東部の低地と、その中に浮かぶ大宮台地、低地西縁に接する川越台地と武蔵野台地の一部が含まれる。人間が最も利用してきた地域であり、川口・浦和・大宮・川越・熊谷など古くから発達した大規模市街地はこの地帯に属する。低平で湿潤な低地は、一面水田となっており、低地帯の7割は農耕地と市街地である。

この地帯は、荒川・利根川の他にも多くの河川が分布している河川集中域であり、かつては豊富な水辺環境で特徴づけられる地域であった。中川低地を中心に存在した広大な低湿地は、多くの池沼・湿地と共に、かつてはガンやサギなど大型水禽類の一大生息域であった。これら低湿地は江戸時代以降次々に水田となったが、この段階では、水田が代替環境として機能し、生物の生息空間となっていた。しかし、戦後、圃場整備や農薬の多用、市街化により湿地環境及び営巣地としての周囲の樹林の喪失が進行し、大型水禽類はもちろん、ヒクイナ(県低地帯の希少種)・タマシギ(県低地帯の危急種)など、水田やヨシ原が必要な生物の数も減少した。

低湿地と共に水辺環境として特徴的なものに、河川の汽水域が挙げられる。埼玉県は内陸にあるが、汽水が入り込むために、海岸付近に生息が認められるヒヌマイトトンボやシラウオなどの生息記録があり、河川環境に多様性を与えていた。だが、ヨシ原の減少やコンクリート護岸・水質汚染などの影響を受け、現在では、それぞれ、県の絶滅危惧種・県の絶滅種となっている。

生物の生息空間が変貌したのは、水辺だけではなく、大宮・入間・武蔵野台地上のいわゆる「武蔵野雑木林」も同様である。開発の手を免れ、わずかに残された台地上の二次林と、河川敷に残された草地、社寺林、屋敷林がこの地帯の貴重なみどりの資源となっている。

 

 

 

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