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石灰岩地だけでなく、今や低山帯全体が大規模破壊の可能性を有している。低地帯、台地・丘陵帯に続き、大規模開発計画がこの低山帯に進出してきているのである。その殆どはゴルフ場の建設であり、昭和55年から平成7年までの15年間で合計1200ha余りのゴルフ場の建設が受理されている。

 

(4)台地・丘陵帯   <標高50〜200m>

西部の秩父山地と東部の低地の中間に南北に連なる地帯で、県土の19%を占める。

台地・丘陵帯の植生は、気候的にはシイ・カシ類を中心とした暖温帯林であるが、大規模な照葉樹林はなく、森林の殆どが人の利用・管理によって保たれてきた落葉広葉樹を主体とする二次林(雑木林)である。台地・丘陵帯は、丘陵斜面や台地上に成立するこの樹林と、谷底低地に形成されたいわゆる谷地(谷津・谷戸)環境に特徴づけられる。

雑木林は、コナラ・クヌギなどの木本類は薪炭材として定期的に伐採され、落葉は集められ肥料として利用されるなど、農村生活と深い結びつきを持って引き継がれてきた。そして、落葉広葉樹林下には、春の開葉期前の日光を利用するカタクリ・シュンランなどの春植物が見られ、これら春植物を密源・食草とするコツバメ・ミヤマセセリなどの昆虫類が生息し、特有の生物相がみられる。

谷地には、湧水、水田、斜面林、湿地、ため池などの様々な環境が集約してみられ、元来、多様な生物の生息環境を提供してきた。湧水ではサワガニやホトケドジョウ・ゲンジボタル、ため池ではゼニタナゴやトウヨシノボリなどが生息し、また、水辺から斜面林まで連続していることは、成長段階によって水辺・樹林地などの異なる生息環境を必要とするニホンアカガエルやトウキョウサンショウウオなど両生類の生息を可能にしてきた。さらに、こうした多様な環境を有した自然が広い範囲に連続していたことにより、高次消費者であるサシバなどの好適の生息場所となっていた。

しかし、こうした特有の環境は、圃場整備、化学肥料の導入、農薬の多用に代表される近代農業の進展と共に、変質してきた。そして、高度済成長期以降、宅地・工場用地への転換が進み、近年に至っては、ゴルフ場などの開発などにより、大規模な改変が行われている。

そして、台地・丘陵地が開発によって被覆されることにより、それまで台地・丘陵地の森林が担ってきた水源涵養の機能は低下し、湧水の量・質共に低下してきている。

このように台地・丘陵帯は、生物の生息、環境の悪化に加え、生息地の縮小化・分断化が進んでいる。その結果、数十年前までは身近に見られた生物までもが確実に数を減らし、絶滅へ向かっているものが多い。

 

 

 

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