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2-2. 地帯区分ごとの自然環境の概要と現況

 

上記した地帯区分にしたがい、各区分ごとの自然環境の概要と生物の生息の現況を以下に示す。

 

(1)亜高山帯   <標高1,600m以上>

県南西部、東京・山梨・長野各県との県境沿いに連なる県下最高の地帯であるが、面積は少なく、県土の2%を占めるに過ぎない。植生は、自然状態が比較的良好に残されており、亜寒帯特有の常緑針葉樹であるコメツガ・シラビソ・オオシラビソなどが優先する林となっている。また、生物にとっても、広大な自然環境を必要とする高次消費者であるクマタカなどが生息する貴重な生息環境となっている。

 

(2)山地帯   <標高800〜1,600m>

秩父盆地西側と南側に広がる地帯で、県土の9%を占める。その9割が森林であり、亜高山帯に次いで自然が保たれている地帯である。特に、亜高山帯に接する地域では、温帯域を代表するブナ・イヌブナやミズナラの優占する林が広がっており、これらの林を生息地としているニホンツキノワグマやホンドザル・ニホンカモシカ・ホンドテンなどが生息している。また、急峻な地形も加わり、クマタカなども生息している。しかし、スギ・ヒノキ・カラマツなどの人工林も多く、それら人工林は生物の生息環境を制限している。山地帯には、その地質成立年代の古さゆえに平野には生息していない特有の種も生息している。チチブギセルやヤグラギセル・キセアナナシマイマイなどの陸生貝類がそうである。しかし、これらは移動性が極めて少ないために環境の変化に対し敏感に反応し、絶滅しやすい。既に上に紹介した三種は、森林伐採、林道の開通などの影響を受け、県の絶滅危惧種・絶滅種となっている。雁坂トンネルも開通し、それにともなう道路の拡幅計画やバイパス建設の動きがある。今後動植物の生息環境の破壊が懸念される。

 

(3)低山帯   <標高200〜800m>

上武山地・外秩父山地・奥秩父山地の秩父盆地周辺の地域に該当し、県土の21%を占める。植生は、標高200m〜400mが照葉樹林の成立する上限で、それより800m位までがモミ・シデなどを主とする中間温帯林の植生域と言われている。

低山帯の3割が市街地と農耕地であり、大部分は森林である。しかし、自然植生は殆どなく、特に山地の南東部にはスギ・ヒノキの人工林が圧倒的に多い。その他の森林もクリ・リョウブ・コナラなどの若い二次林となっている。

低山帯を含む山地には、基岩の露出した石灰岩地が点在し、特有の生物が生息してきた。チチブミネバリやチチブイワザクラなどの植物もそのー部である。石灰岩はセメントの原料として採掘されるため、石灰岩地特有の生物は、絶滅の脅威にさらされている。

 

 

 

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