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1. エコロジカル・ネットワーク

 

1-1. エコロジカル・ネットワークの背景と概念

 

現在、人間活動の影響を受けて多くの動植物が絶滅の一途を辿っている。その結果人類自体の生存基盤も、自然環境の破壊や資源の枯渇に伴い危うさを増している。

自然保護において、当初は「絶滅に瀕した種の保護」ばかりがクローズアップされていた。しかし、個々の種そのものに焦点を絞った保護政策は、その種の長期的な生存を確保するためには明らかに不適切であるということが、今までの自然保護政策に対する反省の中から明らかになっている。現在、種の絶滅の主な要因は、ハビタット(生物および生物群の生息環境)の喪失によるものとされている。すべての種は特有の環境条件の組み合わせに依存して生きており、その種のライフサイクルを保障するハビタットがあってはじめて維持することができるというのが、この数十年間における最も重要な自然保護の教訓となっている。しかし個々のハビタットは、その領域内の地形や動植物などによってのみ成り立っているのではなく、土壌や地下水、川の上流から流れてくる土砂や栄養物など、周囲の様々な環境要素があってはじめて、その場所の健全な生態系が保たれるのである。そこで個々の種やその生息地の保全にとどまらず、生態系全体を守り、生物多様性を保存することの必要性が問われるようになってきた。こうした流れの中で、1992年地球サミットにおいて160ヶ国以上の国によって署名された生物多様性条約では、「種の多様性」という視点と共に、「遺伝子の多様性」、「生態系の多様性」が生物多様性を維持していく上で必要であるということが、再確認されている(リードとミラー、1994)。

野生動植物の絶滅と同時に、地球規模での環境破壊や天然資源の枯渇が大きな問題となっている。これらの問題は、急激な人口増加に伴って起きているため、将来計画の中に自然環境の持続可能な開発と、自然と人間との共生という視点が必要不可欠なものとなってきた。人間にとって、最も効率の良い土地利用を考える中で、ユネスコ、国際自然保護連合などによって、保護区の規模の問題や最も効率的な保護区の形態・配置の方法、保全と持続的発展の両立論などが論じられてきた。

このような2つの流れを背景に1990年代前半から、自然保護区を中心とし、それらをネットワークで結び、大陸規模で自然保護・復元を行うという新しい自然保護の考え方がヨーロッパ大陸と北アメリカ大陸(中米を含む)でほぼ同時に生じている。これが「エコロジカル・ネットワーク」という概念である。

エコロジカル・ネットワークには、従来の自然保護計画において欠けていた二つの新たな視点が取り入れられている。ひとつは、「ネットワーク」の必要性が重要視され

 

 

 

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