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ていることである。これは個々の生物の生息場所を保護するだけでは、その生物の分散や移動のパターンを維持するのには十分でないという過去の反省から得られている。もう一つは、国際的な視点に基づいた計画の策定がされることである。絶滅の頻度が高い大型動物の中には一つの保護区、さらには国境を越えて移動する種もあり、このような種の生存と大型動物を含んだ生態系を維持するためには、多くの場合、地域的もしくは国内的な方策だけでは不十分であるためである。さらに、環境汚染や気候変動、大陸河川ルートの管理計画といった、もはや国内規模の方策だけでは対処できない規模のものに対する対応という視点も含まれている。

ヨーロッパ大陸におけるEECONET計画、リトアニアのNature Frame、オランダのEcological Network、アメリカのWildlands Projectなど、各国でこの概念を取り入れた計画が策定され、また実施されている。

エコロジカル・ネットワークは、上記の概念をふまえて、?@コアエリア?A緩衝帯?Bコリドー(生態的回廊)という3つの基礎要素で構成される保護システムである。以下にそれぞれの要素の基礎概念を紹介する。

 

?@コアエリア:

自然保護において文字通り「核」となる区域。基本的には人間活動の影響を全く受けず、大型肉食獣の個体群が長期間存続可能な面積と生物の多様性が必要である。しかし実際は、開発の進んだ地域などでは大規模なコアを設定できず、小規模なコアが設定される場合もある。

?A緩衝帯:

人間活動が及ぼす影響からコアを守ると同時に、コア内の生物にとっての補助的なハビタットやコリドー(生態的回廊)としての機能も持つ。人間活動による利用も一部認められるが、様々な利用圧が存在するので、2区分以上の区分けが望ましい。また、すでに開発が行われている区域を「自然環境改善エリア」や「自然復元エリア」として設定し緩衝帯と併設、もしくは緩衝帯に含む場合もある。

?Bコリドー:

生態的回廊。コアエリア間の生物の移動・遺伝子の交流を可能にする経路となる。また野生動物の季節移動や気候変動に伴う緯度・高度間の移動を可能とする。しかし、コリドーの働きにより病気が蔓延したり、遺伝子の変異を伴う地域個体群が消滅することも考えられるので、無闇にコリドーを設置することは避け、あくまでも潜在的に存在するコリドーの保全・復元に止めるべきである。

 

 

 

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