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家であり、必然的に多宗教国家である。実際、1996年の居住人口約300万人のうち中国系が235万人(78%)を、残りをマレー系43万人、インド系22万人、その他で占めている。また、10歳以上の国民の信ずる宗教は、仏教が80万人、儒教が55万人、イスラム教が38万人、キリスト教が32万人(カソリック10万人、新教32万人)、ヒンズー教が8万人となっている。この他少数ながらシーク教、ユダヤ教、ゾロアスター教、ジャイナ教なども信じられており、日本の天理教も活動している。

このため画一的な自然観がなく、どちらかといえば自然を征服利用すべき対象とみなしがちである。その意味で、海の漁場や自然生態系としての価値よりも交易・観光の手段としての機能面や都市国家的な合理性を重要視しており、汚染の化学的処理に対しても寛容である。

 

?B批判より沈黙

シンガポールはリー・クアン・ユー前首相が率いたPAP(人民行動党)の支配のもとで、30年に亙って経済成長を続け、めざましい発展をなしとげてきた。反面、ルールを重んじた政策の強引さも目立ち、共産主義者への警戒などから政府への批判に対しては神経質になっている。新聞や雑誌は検閲を受けなければならず、場合によっては部数制限や販売禁止の措置もあるという。このため、知識人なども盗聴や尾行を恐れたり、マスコミなどが強烈な政府批判を展開できる雰囲気にないことは、実際に見聞したわけではないが、今回ヒアリングした関係者の言葉から間接的に窺い知ることができた。石油流出事故に対しては、知識人からもタクシー運転手やホテルの従業員、商店の経営者など一般人からも政府対応へのあからさまな批判は聞かれず、無関心か好意的な意見が多かった。

 

?C少ない一次産業への影響

シンガポールは海洋に囲まれていながら、漁業などは盛んではなくもっぱら輸入に頼っている。聞いたところでは、シンガポールに漁船は20隻足らずしかないという。一部で養殖は行われている。国連統計の漁獲高(1998年)でみてもマレーシアの68万トン、インドネシアの364万トンに比べてわずか1.1万トンであり、しかも年々減少している。したがって海洋汚染やその対応処理が直接漁業に及ぼす影響も大きくなく、汚染に寛容な態度の要因になっている。

反面、観光資源やレジャー資源としての海洋には敏感であり、今回の事故で観光の島や東海岸への漂着防止に重点が置かれたのもまた、珊瑚礁や海中生物の豊富な海域でのレジャー用潜水への影響を除くため、浄化活動に力をいれたのも、そのせいと言える。

 

 

 

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