3.3 シンガポールの生物学的環境修復導入に対する社会的.法的.制度的制約
シンガポールにおいては、まだ水質汚染等を生物学的に修復するための法的枠組みは存在していない。海洋汚染に関してはシンガポールも縦割り行政になっており、洋上の汚染はMPA、海岸の汚染は環境省、セントーサ島の管理はセントーサ開発公社、セマカウ島は国立公園委員会、スドン、プラカウ、セナイなどの島々は軍の管轄下にある。バイオレメディエーションに関するこれらの組織の統一的見解はなく、独自の見解もない。しかし、昨年秋のタンカー衝突による大規模な汚染事故を契機に一部でバイオレメディエーションの効果を試験しており、また石油精製や輸送の際の廃油処理に非公式に使用されているという情報もある。このため、これらの効果測定の結果によっては汚染処理対策のひとつとして公的に取り上げられる可能性はある。
今後注目される動向としてはシンガポール国立大学の中に設けられた熱帯海洋科学イニシャチブ(Tropical Marine Science lnitiative)の動きである。これはシンガポールに適した海洋生物学を推進するべく大学内で再組織化された研究所群で海洋物理研究所(工学部所属)、音響生物工学研究所、海洋生物学・生物工学、海洋養殖、いるか研究センターから成る。今度の事故を契機に、特に本年秋には第4回アジア太平洋NGO環境会議がシンガポールで開催されることもあり、この研究所群の中で油汚染から海洋生物や環境を護るための研究が取り上げられようとしている。
本年1月の現地調査の結果、有識者などからの意見聴取により、シンガポールの独特の国情や文化的背景から来る、石油汚染事故やその対策手法としてのバイオレメディエーションに対する考え方を理解することができた。それらは文化的制約ということができよう。
?@海事に関し受容性が高い
シンガポールは有史以来、ジャワ、タイ、スマトラの3つの異なる勢力の中心部に位置することから、胡椒やお茶などの中継基地としての役割が強く、イギリスや日本の支配下でも錫やゴムの貿易輸出港や軍港として栄えた。独立後も海外資本や華僑資本に頼りながら積極的な開放政策を進めており、基本的に中継基地という性格は変わっていない。石油に関してもタンカーの主要航路を有するほか、海上石油精製基地や停泊地としての役割も大きい。このことは、シンガポール南西部の海岸に林立するタンク群や蝟集する船舶群を目の当たりにするだけでも実感できる。シンガポールの海上交通への依存と重要性の認識は石油精製基地や船舶廃油の問題などを含む海洋汚染などに対する比較的寛容な態度となって表れている。
?A画一的な自然観がなく合理的で海洋の機能面を重視
シンガポールは典型的な中国系を中心とした海外からの移住者とその子孫から成る多民族国