第4章 生物学的環境修復手法導入のための社会的コンセンサス形成の検討
これまで見てきたように、石油汚染等に生物学的環境修復手法(バイオレメディエーション)を適用することは、米国等では公的に認められており実施例も多い。我が国においても、ナホトカ号の重油流出事故以来、生物学的環境修復手法(バイオレメディエーション)の適用可能性を探る動きがいくつかあるが、いまだ主として基礎実験ないしは初期の試行実験程度である。一般に米国では問題がなければ実施してみる、といった実用主義的傾向が強いのに対し、我が国においては、問題が否定できなければ躊躇する傾向が強い。少なくとも我が国では社会的コンセンサスがこの手法の発展の鍵を握っている。国情の違いにもよるが、昨秋の事故を契機にシンガポールでは早速基礎実験が始まっており、我が国の方が遅れをとる可能性もある。バイオレメディエーションの効果については、最近、米国でバイオレメディエーションの効果測定が大々的に行われており、慎重な評価が必要であるが、自然にやさしい比較的安価な手法にはちがいないので、有効な手段であることを前提として、社会的コンセンサスを得ながらその導入を図っていくことが必要である。そこで最後に生物学的修復手法(バイオレメディエーション)の導入を図るための社会的コンセンサスを形成していくために必要と思われる課題を検討する。
4.1 バイオレメディエーション実施のための社会的条件
まず、ナホトカ号事故後対応を教訓として、日本でのバイオレメディエーション実施のための社会的条件を概観してみる(図4-1)。図に見るように、バイオレメディエーション技術は社会的視点からみると地理的、経済的、文化的、制度的さまざまな多面性を有しており、いずれの面でも課題を抱えている。導入に関して社会的コンセンサスを形成するためには、これらを慎重に検討・配慮して取り組む必要がある。自然観やマスコミなどの姿勢とも関連がある。
国内のヒアリングなどから生物学的環境修復手法(バイオレメディエーション)に対する受け止め方を眺めてみると各人各様である。概略的にまとめると、
?@気味悪さ先行型(怪物幻想型)
・何か得体の知れないものができるのではないだろうか?
・何か有害な物質が生成されるのではないだろうか?
これは科学的素養が薄く、たとえばバイオという言葉から‘ばいきん’を連想するような程度の理解のひとに多い。