3.2 我が国の生物学的環境修復導入に対する社会的・法的・制度的制約
重油流出による海洋汚染に対して、生物学的環境修復を行うことに対して、現在、我が国では明確な法的指針が示されていない。政府が指針らしきものを出した唯―のものは1997年2月水産庁と環境庁が連名で出した通達「ナホトカ号流出事故の流出油及び漂着油に対する処理剤等の利用について」である。
通達の趣旨はバイオレメディエーション技術は「今後とも、これらの調査・研究を推進して、その技術的有効性や環境への影響等を明らかにする」必要があるものと牽制し、一方「実際の使用に当たっては地元漁業協同組合及び自治体等の理解と協力を得ていく必要がある」と実際の使用に当たっては地元漁業協同組合及び自治体等に判断を委ねたものである。
したがってこの通達ではバイオレメディエーションを実施すべきか実施してはいけないのか明確でなく実施した地元漁業協同組合および自治体と実施しなかったところに二分された。正しくはごく一部の地元漁業協同組合および自治体が試験的にバイオレメディエーションを実施し、大多数の地元漁業協同組合および自治体がバイオレメディエーションを実施しなかった。
ナホトカ号流出事故をうけた科学技術振興調整費では「ナホトカ号流出事故による環境影響に関する緊急研究」がなされた。これは?@流出油による環境汚染監視方法、?A油流出にともなう漂流予測システム、?B流出油の化学組成及び環境動態、?C流出油による水産生物に対する影響の4件であり、基本的にバイオレメディエーションを含むところには至らなかった。
3.2.1 社会的制約
我が国では歴史的に清潔をもって旨とする慣習が続いてきた。古くは戦国時代のキリスト教伝道師の布教報告に、また徳川時代末期から明治時代にかけての外国人の日本見聞記には市街地の清潔さが驚きをもって報告されている。これは伊勢神宮の遷宮などや行事にみられる神道における簡素さ、あるいは「ハレとケ」に象徴されるような潜在的な心理的刷り込み現象が続いてきたことにあるかもしれない。同時に菅江真澄の東北飢饉の見聞記にあるような悲惨な状態が「清潔さ」の菓面に共存してきたという複雑性を持っている。
閉鎖的社会が形成されてきた関係から「外部」的なものに対する心理的抵抗感は相当なものがある。
現在、O-157病原性大腸菌の事件は細菌あるいは微生物なるものに本能的な恐怖感を与え、抗菌性グッズが流行したりする社会現象をもたらした。また近年話題を呼んでいる環境ホルモンの問題も化学物質とはいえ、一般大衆には目にみえない恐ろしいものが取り巻いてきているという実感を与えてきている。