なかったことと、漁業自体の規模が小さいために実被害が少なく、流出油による汚染や大量の化学処理剤を使用したことに対して一般・関係者の関心は薄い。政府による情報のコントロールについては具体的に確かめることができなかった。この事故の対策としてバイオレメディエーションが適用されたことはなかったが、研究用としていくつかの汚染地域で栄養剤による実験が始まっている。軍用地のため、これに対する住民のコンセンサスについて格別の配慮はなされていないし、必要性も感じられていない。バイオレメディエーションが船舶からの排出油や製油所での汚染対策にすでに適用さているとの話も聞かれた。
?B生物学的環境修復導入に対する社会的・法的・制度的制約、文化的背景と課題の国際比較
(1)調査研究の実施内容
生物学的環境修復導入を困難としている社会的・法的・制度的制約を明らかにするため、?@、?Aの調査結果をもとに、我が国と生物学的環境修復導入を行っている米国との間の文化的背景を踏まえて、社会的・法的・制度的などの観点から、生物学的環境修復導入のための課題について国際比較を行った。
(2)調査研究の結果
米国ではバイオレメディエーションは法的にも認められており、コスト/効果の評価を進めながら技術適用先行で進んでいる。これらは、国土の広大さ、軍用地の存在、功利主義、技術本位の考え方、微生物観、大規模石油会社の存在などとも関係していることがわかった。シンガポールではバイオレメディエーションヘの関心がようやく高まってきたが、特に住民とのコンセンサスについて配慮する必要性は薄い。これらは、石油中継基地としての国際的位置づけ、海との密着観、一党支配、独特の商業倫理などが背景にあるといえることがわかった。
これに対し、我が国では国土の狭隘なこと、沿岸地域が住民の生活と密接に結びついていることから、生物学的環境修復手法の適用にあたっては住民とのコンセンサスを得ながら進めることが不可欠になっている。一般的には、地域住民には微生物(特にその導入)に対する不安感、嫌悪感、栄養分の過多による環境悪化や生態系の乱れへの懸念などがあって、生物学的環境修復に対し拒否的反応があるとされているが、手法の意義と限界に対する十分な理解と科学的な手順と情報の公開性が満たされれば、コンセンサス形成は困難ではないと推測することができた。
?C生物学的環境修復手法導入のために社会的コンセンサス形成の検討
(1)調査研究の実施内容
?@、?A、?Bの検討結果をもとに、生物学的環境修復手法の導入に対する社会的コンセンサス形成のための課題を明らかにし、それを解決していくための方策について委員会等で検討した。
(2)調査研究の結果
委員会での討議の結果、地域住民とのコンセンサス形成のためには、生物学的環境修復手法を汚染対策手法として国などの研究機関が積極的に取り上げその基礎研究を充実させること、石油の種類や海岸などの特殊性を考慮した応用技術を発展すること、それらの成果を評価する手法の開発とマニュアル化、標準化を進めること、その結果を公開することなどが必要である。こられの研究と同時に、地域住民への生物学的環境修復手法の広報、おおまかなガイドラインを作成すること、上記の推測などを確かめるための調査研究や国際的な意見交換の場の設置が必要であるとの結論が得られた。