ける場合とは異なる運動をする。このような海氷相互の間に働く力を海氷の内部応力という。この内部応力をどのように評価するかが、海氷の力学的変動のモデル化を行う場合の重要な課題になる。
5.2.2 海氷の熱力学的モデル
熱の授受による海氷の量変化を数値的に取り扱う手法として、海氷の周囲の熱的要因を全て考慮して氷厚を求める手法は、最近の計算機の進歩の伴って発達してきたものである。初期は単純な1次元的近似による解析が行われ、氷厚の変化を目安として積算寒度というものがよく用いられた。積算寒度とは、いわば寒さの量の端的に表したもので、一般にはある期間で日平均気温を積算したものを用い、単位は「deg-day」であるが、氷厚の変化を表す式においては、温度は海水の結氷点以下を積算する。
Stefanは熱伝導による純氷の成長を理論的にはじめて取り扱い、
I2=κΣT (5.2.1)
すなわち「氷厚Iは積算寒度ΣTの平方根に比例する(κは比例定数)」という単純な法則を提案した。以来、Zybov(1945)によるロシア北極圏各地における観測結果をもとにした式
I2+50I=8ΣT (5.2.2)
あるいはAnderson(1961)による積雪のない海氷についての式
I2+5.1I=6.7ΣT (5.2.3)
など、多くの要因を包括的に含む近似式が経験的に求められてきた。しかしこれらは、あくまでも氷厚の観測結果に追随する目的で提案された便宜的な式であり、海氷の成長過程を把握できる物理的な解析することはできない。また、当然海氷の広がりを表すことは出来ないので、ある場所での海氷の厚さを見積もることには有用であるが、海氷の分布の予測には適していない。
気温などを用いた熱交換を扱う理論的な数値モデルは、1960年代には存在していたが、現実の熱的影響を網羅する数値モデルは、Maykut & Untersteiner(1971)によって一応の形を確立したといって良い。彼らによる数値モデルがそれまでのものと決定的に異なる点は、実際の海氷に考えられる物理的条件をそのまま記述していることにある。条件は、積雪による効果、塩分量の影響、氷中及び積雪中の熱伝導などである。Maykut & Untersteinerによるモデルの概要は、以下の通りである。