5.2.1 海氷の力学的モデル
海氷移動に関する研究の始まりは1902年にNansenが行ったフラム号の漂流の解析であり、このときNansenはNansenの法則とも呼ばれている漂流の風力係致すなわち、海氷の流速の風速に対する比が0.0190であることを見出した。
海氷の移動・変動を数値的に取り扱う力学的モデルはCampbell(1965)が北極海の海氷の移動の計算を試みたことに始まる。Coon et al. (1976)は、AIDJEXの観測結果をもとにして熱力学的過程を含めた詳細な運動力学的モデルを作成した。また、Rothrock(1975)、Thorndike et al. (1975)、Hibler(1977)は海氷の力学的性質を詳しく調べてモデル化している。
1970年代の中盤のオイルショックをきっかけに、北極地域に埋蔵する金属資源やエネルギー資源などの天然資源への関心が高まり、それらの調査・開発のため、氷海域への船の出入りや海洋・海岸構造物の建設が飛躍的に増加した。氷海域でのより安全な航海、及び極地域の環境に耐える海洋・海岸構造物の設計・建設のため、比較的狭い領域での氷の移動や氷と海洋・海岸構造物との相互作用に関するより詳細な研究が活発になった。Thomson et al. (1988)とBruno & Madsen(1989)は従来の広い領域での海氷の長期変動のモデルに適用された連続体モデルを、狭い領域での海氷の短期変動に適用した。一方Savage(1992)、Serrer et al. (1993)、Frederking & Sayed(1993)は個々の氷盤を円盤にモデル化し、各々の円盤の運動を個別に解析する個別要素モデルを提案した。しかし、連続体モデルは、狭い領域での海氷の短期変動の解析にあたって重要になる海氷の離散的な特性の表現が出来ないため、制限的な適用に止まっている。また、個別要素モデルは海氷の離散的な特性をそのままモデル化したため、詳細な氷の移動や氷と構造物との相互作用の数値的な解明に適切なモデルではあるが、数値演算の複雑化のため計算時間が長くなり、扱える氷盤の数も限られるという欠点がある。
このような連続体モデルや個別要素モデルが持つ問題点の克服し、中規模領域での海氷の短期変動を取り扱うDMDFモデルがRheem et al. (1997)により提案された、このモデルは、海氷の離散的な特性を考慮した海氷運動や海氷と海洋・海岸構造物との相互作用を数値的に扱うモデルで、連続体モデルと個別要素モデルの両方の特性を含む中間的モデルである。
海氷の移動は主に次の5つの力の作用に支配される。すなわち、風から海氷に加えられる力、海流から海氷に加えられる力、コリオリ力、海氷が浮いている海面の傾きによる水面傾斜力及び、海氷の相互作用による応力(内部応力)である。
海氷が海洋上に孤立している場合は、個々の海氷はそれに働く大気や海流の及ぼす力によって、自由に移動する。しかし、海氷の動く方向に、たとえば定着氷があるような場合には、海氷が相互に力を及ぼし合うので、大気や海流からのみ力を受