第5章 海氷数値モデルの現状*
5.1 はじめに
海氷は海洋の上層の水が凍結することによって生成され、融解して海洋上層で消滅する。また、生成された海氷は、海洋上を移動し、割れたり重なったりして変形する。海氷の変動をモデル化するには、これらの生成、消滅、移動、変形の4つのプロセスを正しく記述する必要がある。
海氷モデルは、上記の生成・消滅過程を取り扱う熱力学的モデル、及び移動・変形を取り扱う力学的モデルの2つの方向から開発が進められた。海氷の熱力学モデルは、海氷に流入するあるいは流出する熱量を評価することにより海氷の生成・消滅による変化を数値的に表すモデルである。一方、海氷の力学的モデルは生成された海氷の移動・変動を取り扱うモデルであり、海氷の運動量と質量・密接度の保存の式により構成される。これまで、連続体モデル、個別要素モデル及びDistributed Mass / Discrete Floeモデル(以下DMDFモデル)モデルなどの海氷運動を数値モデルが提案されている。
連続体モデルは、広い領域での海氷の変動を取り扱うのに適し、熱力学的モデルとの融合も容易である。しかし、連続体モデルでは、狭い領域での海氷の変動に大きく現れる海氷の離散的な特性を表せないため、海氷運動を個々の円盤運動の集合として取り扱う個別要素モデルが提案された。個別要素モデルは、海氷の離散的な特性をそのままいかしたモデルで、狭い領域での海氷の変動を取り扱うのに適している。一方、このモデルは1つ1つの氷をLagrange方式で追跡するため、計算のアルゴリズムが非常に複雑になり、多くの計算時間を必要とし、扱える氷盤の数も限られるので、比較的広い領域への適用が困難である。DMDFモデルは、海氷の離散的な特性を考慮した海氷運動や海氷と海洋・海岸構造物との相互作用を数値的に扱うモデルで、連続体モデルと個別要素モデルの両方の特性を含む中間的モデルである。
5.2 海氷モデル
海氷モデルは、海氷の生成・消滅過程を取り扱う熱力学的モデル、及び移動・変形を取り扱う力学的モデルの2つに大別される。ここでは、力学的、熱力学的モデルについて、その歴史と特徴を説明するとともに、両者を連成したモデルについて述べる。
* 執筆者 林昌奎