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(5) マイクロ波の表面散乱

均一な2つの媒質の境界面に、一方の媒質から電磁波が入射し、境界面のみで散乱が生ずるとき、これを表面散乱と呼ぶ。地表面や海面などによるマイクロ波の散乱は表面散乱である。

表面散乱の強さは、媒質表面の複素誘電率の増加とともに強くなり、その散乱角特性は表面の粗さによって決まる。滑らかな表面による電磁波の反射は、鏡面反射であり、入射波と反対の方向に大きな散乱成分を持つ。その反射の大きさはフレネルの反射係数で与えられ、境界での複素誘電率の比とともに増大する。表面が粗くなると鏡面反射成分の他に散乱成分が生ずる。

鏡面反射の成分はしばしばコヒーレント成分と呼ばれ、散乱成分は拡散成分あるいはインコヒーレント成分と呼ばれる。この拡散成分はあらゆる角度方向に成分を持ち、粗さが小さい時は、鏡面反射成分に比べ小さい。表面の粗さが次第に大きくなると、鏡面反射成分が減少し、拡散成分の大きさが相対的に増加する。さらに面の粗さが増大し完全な粗面になると、鏡面反射の成分がなくなり、拡散成分のみとなる。

ランダムな表面散乱の程度は、使用する電磁波の波長と観測する物体の表面の粗さのスケールの相対関係によって決まる。散乱の度合いを表す量に散乱断面積がある。散乱断面積は散乱波の全電力と入射電力密度との比で表され、物体の表面で散乱された電磁波のエネルギーがいずれかの方向に存在する確率を表す。散乱断面積は入射方向と散乱方向の2方向の関数であるが、合成開口レーダーや散乱計などのリモートセンサの場合には、観測される散乱波の方向は入射方向(入射方向の散乱を後方散乱という)であるので、ここでは後方散乱の場合について説明する。

レーダの送信電力をPt、波長をλ、レーダからの距離をR、散乱面の微小面積をAi、アンテナ利得をG、受信電力をPrとすると、この散乱面のレーダ断面積σiは、レーダ方程式(2.1式)から

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で与えられる(図2.1参照)。ここで目標となる散乱面の単位面積あたりの散乱断面積σ0=σi/Aiを後方散乱係数と呼ぶ。後方散乱係数は表面の粗さによって異なった入射角依存性を持つ(図2.8)。

 

 

 

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