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1) 差異反復による論文産出

さて,そのジャーナルに投稿される科学論文は1つの定形式をもっている。すなはち,自然科学の論文はかならず,導入,方法(あるいは手続き),結果,考察(introduction,method/procedure,results,discussion)の順で書かれるということである。この形式が踏襲されることにより,過去の類似した研究との「差異」が強調されることが可能になる。つまり,rethodologyが新しい,あるいはresultsが先行研究と異なる,あるいは同じ結果から異なるdiscussionが可能である,などのように差を強調できる。この定型式を取ることによって,先行研究との差異が明確になるのである(2)

科学論文は先行研究群との「差異」を強調することによって書かれる。この差異こそがオリジナリティと呼ばれるものであり,投稿者も査読者も,この「差異」に非常に敏感である。ある論文がそれまでの論文群の差異を強調して書かれ,その論文を引用して書かれる論文も,またそれとの差異を強調して書かれ…という論文産出の連鎖を考える場合,現代科学論文は「差異の反復」によって書かれると考えてよいだろう。この差異の反復は,something new-ismと形容されることもある(3)

 

2) 知識の妥当性境界(validation-boundary)

さて,この差異反復によって産出される論文群は,ある境界を形成する。まず,1つのジャーナルのもつ境界が形成される。1つのジャーナルの査読者の判断によって,ある論文は受理され,ある論文は拒否される。この査読者の判断,という行為の結果として,そこにはそのジャーナルの境界というものが形成される(4)。拒否された論文はその境界の外にあり,受理された論文はその境界の内にある。はじめから境界があるのではなく,あくまで論文生産の継続をあとから振り返ってみると,そこに境界があることがわかる,のである(図1)。

 

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