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この境界は,そのジャーナルの妥当性要求の境界(validation-boundary)である。これを以後,妥当性境界とよぶ。これは産出される論文群の境界として,つまり論文の産出という行為(action)のあとに形成されるものである。

次に,分野disciplineというものを考えてみよう。分野は,複数の複数のジャーナル共同体によって形成される。しかし,この世に存在する数あるジャーナル共同体群のなかで,あるものは引用関係が密であり,あるものは引用関係が疎である。したがって,引用関係が密なジャーナル共同体群を,分野(discipline)と定義することができる(5)。この知識産出の現場から定義される妥当性境界は図2のように表される。これは知識の生産現場からの分野の定義である。すなはち論文産出という生産行為-actionの「後に」形成される構造としての定義である(2)

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これに対し,?でのべたdisciplineの定義は,つまり教育制度などestablishされた制度の側からの定義である。これは,論文産出行為よりも「先に」構造が与えられることによって成立する定義である。したがってこれは,生産現場からの分野の定義,つまり行為によって形成される構造としての定義,とは異なるのである。

 

(3) 領域間距離を何で定義するか?

領域の定義について考えた次に,領域間距離を何で定義するかについて考えてみよう。ここでは,操作的定義(文献分析による,評定による)と理論的定義の2つについて考える。

 

? 操作的定義の1(文献分析)

研究領域の地図,あるいは科学の地図を作りたいという要求は根強く存在しており,さまざまな試みが行われている。ここではまず科学計量学(サイエントメトリックス)の方法を用いた領域の操作的定義の試みをいくつか紹介する。これは,co-word分析,co-author分析,citation分析からなる。共語分析は,1つの文献内,節内,パラグラフ内,あるいは一文内などの単位の中で,2つの語が共に出現する頻度を計算し,それを用いて語間の距離を定義して付置を決めるものである。それに対し,共著者分析は,これを共著関係を用いて行う。そして引用分析は,ある文献に引用されている文献を用いて,論文単位,ジャーナル単位での引用関係を集計し分析することである(6)。前2者の分析においては,対象となる文献の全文が用いられることもあれば,アブストラクトのみ,タイトルのみを分析対象とする場合もある。代表的な先行研究としては,論文テーマおよびアブストラクトに出現した共語分析を用いて,化学および応用化学における科学の地図(science-map)を作成しようとしたもの(7),やはり共語分析を用いてある分野内の科学者集団の関心の変遷をおったもの(8),あるいは引用関係を用いてジャーナルを単位に科学の地図を作成しようとしたもの(9)などがある。(図3)

 

 

 

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