我々もこの好中球の新しい細胞内類粒に興味を持ち、凍結超薄切片に細胞化学を導入した最新の形態学的手法を開発し、NAP,FcRIII receptor(CD16),decay-accelerating factor(CD55)等のGPI(glycosyl-phosphatidylinositol)-アンカー型蛋白質を含む顆粒はラクトフェリンを含む従来の特殊顆粒と異なる新しい第三の顆粒であることをより明確にしてきた[8,16,19,20,21,25]。
B へき地の種々の疾患におけるNAP scoreの再評価の必要性
好中球細胞内顆粒の実体を明らかにすることは基礎医学的に基本的命題であると同時に、血液は臨床診断に広く用いられており臨床医学的にも重要な意味を持つ。臨床的に好中球の増加症・減少症はしばしば見受けられる。例えば、副腎皮質ステロイドの投与で好中球増加が認められ、臨床検査的には好中球の数が増加するのみならずNAP scoreの増加を認める。慢性骨髄性白血病ではNAP scoreの減少が重要な診断的意義を持つことはよく知られている。従来NAP scoreは特殊顆粒の増減をみる検査として臨床疾患の早期診断及び治療経過観察に役立てられてきた[1,27]。ところが、特殊顆粒の指標酵素とされていたNAPが、それとは異なる全く別な細胞内顆粒に存在しているということになると、新たな意味付けと再評価が必要となる。又、NAPを含む顆粒は外界からの刺激に対してアズール顆粒や特殊顆粒より早く反応(脱顆粒)を起こすことが知られているので[4,5]、その増減をみる検査としてのNAP scoreはますます種々の疾患の早期診断及び治療経過観察に役立つことが期待される。
C 好中球NAPの細胞生物学的研究の展開
このNAPを含む第三の顆粒に関して、その特徴付け及び細胞内顆粒の分類が全て解明されたわけでなく、疑問点が残されていることも事実である。例えばNAP,CD55は非刺激時にそのほとんどが細胞内に存在していることが知られているが、一方CD16は細胞内に存在すると同時に細胞表面にもかなり存在しており、GPI-アンカー型蛋白分子の存在様式にはかなりのheterogeneityがあるようである。又、NAPを含む顆粒はエンドサイトーシスにより形成されるエンドゾームと同一のものではないかとする説もあり[4]、好中球細胞内の顆粒分類は今後更に詳細な検討が必要な状況となってきている。しかし、未梢血及び骨髄において、生化学的手法を用いて個々の顆粒におけるGPI-アンカー型蛋白分子を解析することは容易なことではない。このような複雑な系において、形態学的手法(細胞化学的手法)を用いた解析が一番有効な方法とならざるを得ない。