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抗体陽性者のうちの半数以下であると推察された。コア抗体陽性者のうち90%近くはHCV-RNA陽性であり,また無症候性キャリアであっても肝生検を行うと約90%に慢性肝炎の所見があると報告されているため8),無症候性キャリアであると思われても,慢性肝炎患者と同様の経過観察が必要である。

HCVの感染経路については以前より検討しているが,当村では輸血歴者と非輸血歴者との間にコア抗体陽性率には差がなく,また特定の地域だけに行われる民間療法もなく感染経路は不明である。しかし,このような小さな対象地区の中にも明らかなHCV感染の地域差,年齢差が見られるため,さらなる疫学調査により感染経路が明らかになる可能性がある。ただ,コア抗体の新規陽性者は3例のみで,そのうち2例は一過性の陽性であったことを考えると,HCVの新規感染はほとんどなく,それが慢性化する率も低いものと思われた。従って,現在も感染経路が残っているとする考えは否定的である。

住民全体としてみたとき,HCVの感染者が多いことから,肝細胞癌の発生が多いことは容易に想像がつくが,それは全国平均の約4倍という高率であった。また,実数でも他の悪性新生物をしのいでおり,病院受診者だけでなく,検診受診者のスクリーニング方法を早急にとる必要性に迫られている。

新たな肝炎ウイルスTTV3)についても検討したが,今回は少数例であったため,HCV感染者にTTV陽性者が多い傾向にありそうだが,コア抗体陰性者の肝機能異常に関与するかどうかは検討できなかった。今後の課題としたい。

 

?Y.結語

岐阜県の一山村のHCV高感染地域において平成9年に住民検診を受診した897名について肝機能,コア抗体を測定した。さらに8年間のうちの3年住民検診を受診した545名を対象に肝機能,コア抗体を追跡調査した。

1)トランスアミナーゼ高値率では全体で5.8%であったが,コア抗体陽性率は全体で16.2%と高率であった。このことから,当村には約14%のHCVウイルス保有者がいると推定された。とくに,A地区の50歳以上の住民に限ってみると,コア抗体陽性率は40%以上という驚くべき高率であった。

2)年齢別に比較することにより,50歳未満とそれ以上の年代でコア抗体陽性率に差がありこの年代を境に感染の機会が減少したことが示唆された。

3)コア抗体陽性者は,注意深い観察により,その約半数には肝機能異常が認められた。

4)コア抗体の陽転は現時点ではほとんどなく,またその大部分が一過性の上昇に止まっている。また,コア抗体は1年あたり1%程度の住民で消失している。

5)当村では,悪性新生物のうち肝細胞癌の頻度が実数でも多く,また全国平

 

 

 

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