検案経験者の6割を越えている。アンケート調査票に書かれたコメントを見ると,単に死因判定に困っただけでなく,家族から死体検案書でなく死亡診断書にしてくれと強硬にいわれ,納得させるのに大変だった例もあるようである。
4.検死・検案従事数と法医解剖になった件数(表13参照)
表13は,「医師になってからどれくらい検死・検案に従事し,そしてその内の何件が法医解剖となったか?」という設問の回答を集計したものである。当然のことながら,医師経験年数が上がれば上がるほど,検死・検案従事数と法医解剖になった件数ともに増加している。検死・検案従事経験については,アンケート回答者の84%をしめる。検死・検案例が法医解剖になったことのあるアンケート回答者は20.4%であった。そして,検死・検案例のうち法医解剖となった割合は6.4%であり,東京都監察医務院における頻度(約28%)の4分の上以下にすぎないという結果となった。
lV.考察
この度の検死・検案に関するアンケート調査の結果,へき地医療における突然死の発生状況の概要を明らかにすることができたが,今後その背景因子の詳細な分析をすすめ,そして地域医療の充実を図るためには検死・検案体制の問題点を把握し,その解決策を構築しなければならない。以下に具体的に言及したい。
A.へき地における検死.検案体制の最大の問題点は,東京23区のように監察医制度が組織的に機能している所において見られる検死・検案から行政解剖までの円滑な流れがなく,本来は解剖によって死因を決定しなければならないケ―スが検死・検案のみで済まされていることだと思われる。検死・検案のみで死因を推定することの限界は,高津,柳田ら多くの法医学者から指摘されてきている1)3)8)。高津ら7)は,検案にて病死と判断されたにもかかわらず,解剖によりその診断が外因死と変わった例を数多く報告している。柳田8)は,自身の検案総数6084例のうちの945例,すなわち15.5%において解剖前の予測と解剖後の診断に大きな隔たりがあったと報告している。今回のアンケート調査により集計された検死・検案のみで決定された死因を他の解剖を行っている施設のものと比較してみたところ,いわゆる心不全が多すぎる可能性と,心筋炎,肺塞栓,大動脈瘤破裂など解剖しないと確定できない疾患が抜け落ちている可能性が示唆された。さらに,我々の調査結果分析により検死・検案例のうち法医解剖となった割合は6.4%であることが判明した。東京都監察医務院