監察医制度のある先の3地区の調査統計をよく見てみると死因としてアルコール性肝疾患が多くなっている5)。しかし,第一線の現場では,食道静脈瘤破裂のような明らかな消化管出血が検死・検案時に認められるとか,あるいは,肝硬変などで加療中であることが判明している場合を除いては,アルコール性肝疾患の診断は困難かもしれない。
5)悪性新生物の分析
表3,表5,表6,表7より悪性新生物のデータを抜き出し,病死・自然死における頻度を求めてみると4.6%となる。東京23区,大阪市,神戸市(西区・北区を除く)の3地区の頻度は,それぞれ,4.3%(259件/6002件),4.3%(89件/2056件),3.9%(23件/584件)であり,今回のデータとほぼ一致している5)。これは,検死・検案時に悪性新生物に対する加療歴などの情報があったためと思われる。
3.不慮の外因死の分析(表8参照)
自殺が一番多く,不慮の外因死の41.9%を占め,続いて溺水の18.2%,交通事故の15.4%となる。突然死の定義によると不慮の外因死については,一見あまり考慮する必要はないように思われるが,自動車運転中に急性心筋梗塞をきたし交通事故を起こした例も報告されており6),同様なことは,他の原因(転倒.転落,溺水など)として十分に起こり得ることであり,常に念頭に置いておく必要がある。逆に,検案時には病死であるとされていたものが,剖検すると外因死であった例も報告されている3)7)8)。
D.検死.検案時の問題点
へき地にて検死.検案を行ってゆく過程には,様々な問題が生じると考えられる。今回のアンケート調査では, この点に関しても項目を設けている。以下に,順を追って集計結果を示したい。
1.一般臨床医への法医学の知識の普及について
一般臨床医にとって,検死・検案業務ある所へ勤務しないかぎり法医学のテキストを開く機会は,ほとんどないと考えられる。ましてや,卒業したての医師の大部分は臨床研修に忙殺されているだけでなく,こういった臨床研修を行う病院では,先に述べたように検死・検案の機会はほとんどなく,法医学の卒後教育は,法医学教室に入る場合を除きほとんどなされていないのが現状であると思われる。そこで,法医学に関する基本的な知識がどれくらい普及してい