口の解剖のみで診断可能であるが心筋炎については,ミクロの病理学的検索も要求される。21.4%とされた心不全のなかには,先ほど述べた心筋炎,大動脈瘤破裂だけでなく脳出血などの脳血管性疾患,肺梗塞などが含まれていた可能性が考えられる。これらのことは,検案のみで死因を推定していることの限界を示唆している。
2)脳神経系疾患の分析(表5参照)
脳神経疾患の内訳をみると(表5),脳血管障害が267件(98.2%)が圧倒的に多かった。また,病死.自然死に占める脳血管障害のみの割合を求めると(表3,表5)28.6%(267件/933件)となる。東京23区,大阪市,神戸市(西区・北区を除く)における頻度は,それぞれ15.8%(950件/6002件),11.5%(237件/2056件),8,9%(52件/584件)となる5)。高津らの報告3)は10.4%であり,いずれの値も今回のアンケート調査結果をかなり下回った。この理由として,年齢構成等,地域的背景の差に由来していることが推測されるが,後述のように法医解剖の実施例が少なく,他の疾患(循環器系,呼吸器系,消化器系疾患など)を脳血管障害としている可能性も考えられる。
3)呼吸器系疾患の分析(表6参照)
2)と同様に悪性新生物を除外し病死・自然死における呼吸器系疾患の頻度を求めると,表3,表6より7.1%(66件/933件)となる。東京23区,大阪市,神戸市(西区・北区を除く)の3地区の頻度は,それぞれ8.9%(535件/6002件),7.0%(145件/2056件),7.4%(43件/584件)でありほぼ一致している5)。今回のアンケート調査の呼吸器系疾患の内訳(表6)を見てみると,肺炎を主体とした感染症と気管支喘息が大半を占めている。仮りに突然死を引き起こすとしても,肺炎,気管支喘息の場合は,しばらく前より症状があったと考えられ,検死・検案時に死因を推定し易かったと思われる。しかしながら,高津らの報告では,呼吸器系疾患による突然死は,病死。自然死の20.2%を占め(特に,肺炎は,15.3%),かなり高頻度であり3),やはり注意深い検死・検案が求められる。
4)消化器系疾患の分析(表7参照)
2)と同様に悪性新生物を除外し,病死・自然死における消化器系疾患の頻度を求めると,表3,表7より4.1%(38件/933件)となる。東京23区,大阪市,神戸市(西区・北区を除く)の3地区と高津らの頻度は,それぞれ10.6%(635件/6002件),8.2%(169件/2056件),11.1%(65件/584件),13.1%となっており3)5),我々の頻度と比べてかなり高くなっている。