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罪性はないが死因がはっきりしない場合には,死体解剖保存法8条に基づいて行政解剖が監察医により行われる。監察医による行政解剖にも法的強制力がある。しかしながら,このような監察医制度があるのは,東京23区,横浜,大阪,神戸,名古屋だけである。これらの地区においては,各都道府県警察本部長もしくは各警察署長から委嘱された医師(警察医または警察嘱託医)が検死.検案を行い,必要とあれば,各大学医学部法医学教室において死体解剖保存法に基づかない行政解剖(承諾解剖と称される)が実施されている。承諾解剖は,平成9年にはほぼ全国的に普及し,行政からの予算措置も講じられてきている。

以上の情況を踏まえ,アンケート調査の回答の集計・分析を行った。図3は,現在の勤務先に警察嘱託医がいるかどうかを集計したものであるが,30%の勤務先に何らかの形で警察より嘱託されている医師がいることになる。しかし,図4の検案依頼時の対応に関する調査結果をみると,B.の「検案依頼があれば原則的に受ける。」が全体の60%以上を占め,さらに,A.の「自分の患者が死亡していた場合のみ検案する。」,C.の「日常業務に影響しない場合のみ受ける。」を併せると,8割以上が検死.検案の依頼に応じていることがわかる。D.の「検案は基本的に受けない。」と答えたのは,現在,大規模病院において臨床研修中の人達であり,個人的な意見と言うよりはむしろ研修病院側の方針のようである。

検案業務を行う時間帯の集計結果では,図5に示すように検死.検案依頼を受けている卒業医師の77%が,C.の「依頼があれば,どの時間帯でも応じる。」と答えている。検案を行う場所はどこかという設問に対しては,卒業生の66%がB.の「現場に赴いている。」と回答している(図6)。

現在の勤務先の70%は,警察よりの検死・検案に対する嘱託を受けていないにもかかわらず,図4,図5,図6に示されているごとく「検死・検案依頼があれば原則的に受け」,「依頼があれば,どの時間帯でも応じ」,そして「検死・検案に現場に赴く」という回答が多く,特に,1人もしくは2人体制の診療所においては,ほぼ100%が前記のような方針であると答えている。このことは,へき地においては他の公的医療機関がなく,たとえ警察から嘱託を受けていなくても止むを得ず検死・検案業務に従事しなくてはならないという背景も考えられるが,アンケート調査票に書かれたコメントを読んでみると,死亡された方の死因を検死・検案により何とか正確に推定してあげたいという医師としての職業意識も強く窺われる。また,検死・検案業務を受けたいが,多くの業務をかかえており現実問題として困難であるという意見も一部にみられた。

 

C.検死・検案における死因の分析

 

 

 

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