7. 地域戦略としての港湾事業の活用と財源調達に関する提案
本章では、港湾管理者の港湾事業会計のしくみを点検することによって、港湾整備の意思決定に影響を及ぼしている制度的な要因を整理した。また、地方公共団体が費用対効果的な港湾整備を行なうために必要な財政的環境について検討を行なった。以下では、各節であきらかになった点をまとめながら、地方公共団体の地域戦略として港湾事業を活用する方策と、地域戦略を効果的に行なうための環境設定について述べてみたい。
まず、港湾事業の全体的な収益性については、主要8港の港湾収支は年々悪化し、経常収支については1995年度で償却前赤字の状態である。このような欠損が生じる原因について、地方公営企業会計のしくみから企業債償還のための財源が計上されないために補填財源が必要となること、そして補填財源として減価償却費が用いられることから「見かけ上の赤字」が生じることを説明した。
また、港湾料金が原価費用を反映しない低い水準に抑えられていることも欠損の一因だが、これは港湾管理者が港湾施設を行政財産と考え、運営費をつぐなう程度が適正な料金と判断してきたことによる。港湾建設では巨額の初期投資を必要とし、運営管理については十分な収益をあげることができないため、港湾管理者は一般財源からの繰入れや負担金、企業債によって資金を調達している。
投資効果という視点からは、港湾建設と資金調達において国や港湾管理者が果たす役割を再考する余地がある。港湾建設については、港湾整備特別会計制度のもとでは、地域の必要に応じた港湾施設の建設というよりは、予算消化のための財政運営に陥りやすいという構造的な問題がある。また、これまでの公共投資では、事業効果よりも総需要効果のほうが期待されてきたが、今後は地域経済にどれほどの社会的便益をもたらしているのかを事後的に検証し、費用対効果をあきらかにすべきである。さらに、現行の港湾種別による一律の国庫補助率を見直し、国際競争に直面する拠点港湾を選別し、費用対効果を見極めたうえで集中的な建設投資ができるような補助制度に改革すべきであろう。港湾管理者は、港湾建設にともなうリスクを担保すること、ならびに地域の産業構造、物流の特性を考え長期的な視点から基盤整備を行なう必要がある。
地方公共団体の財政という視点からは、地方交付税交付金制度による地域問財政調整が地域の競争を抑制し、自主財源拡充のための主体的な取り組みを妨げていることを指摘した。交付税制度のもとでは、地方公共団体にとって一般財源(普通交付税)を増やす合理的な選択とは、財政需要を増やすことに他ならない。交付税制度にもとづいた地方債元利償還優遇措置により財政需要を増やしていくメカニズムがあるために、地域間で行政サービスからの受益と税負担がアンバランスになっていることが問題視されている。
深刻化する受益と税負担の不一致を解決する手段として、本章では地方分権化の考え方を紹介した。受益と税負担の不一致が起こる背景には、人々の行政に対するニーズが多様化し、これを把握するための情報収集のコストが政府にとって過大な負担となっていることがある。このような問題を解決するために、国と地方の役割分担に関して国の権限を大幅に地方に委譲し、地方歳入のなかの自主財源を増やすことにより分権的な政策決定の自由を広げようとするのが地方分権化である。必要なものを必要なだけ作るという財政の規律を取り戻すとともに、地方公共団体が相互にその意欲と知恵と能力を競い合う財政的な環境を設定すれば、その結果として地方公共団体の行政サービスの効率化が促されると期待できる。
行政サービスとして供給されているもののなかにも、民間企業が供給できるものはたくさんある。受益と税負担の不一致が深刻な場合に、これらをできるだけ一致させ、財政格差を解決するための手段としてクラブ組織の考え方を提案した。