すなわち、公共性のあるサービスから便益を得ると思われる受益者が自発的にクラブを組織し、会費を集めてそのサービスを供給するという考え方である。わが国では多額の初期投資が必要な社会資本については、公債によって資金調達し、世代間で費用負担することが公平であると考えられてきた。しかし、社会資本の中身によっては、地域社会がクラブ組織のような形で固定費用を負担し、地域の必要に応じた社会資本を整備するという考え方もある。
民間からの資金調達の方法として、本章ではアメリカの州・地方政府が起債する地方債の一種であるレベニューボンド制度を紹介した。これは社会資本の整備に関して、投資によって形成される資産を担保とした借入れを行ない、その資産が将来的に生み出す収益で返済していくという方法である。社会資本については、公共部門が提供するにせよ、公共部門と民間部門が共同で作った組織が提供するにせよ、実際にはその施設の採算性の低さやビジネスにともなう不確実性が事業の妨げになることが多い。地方公共団体が採算性の低さやビジネスにともなう不確実性を担保して民間資本を導入し、社会資本の整備をすすめることにより公共投資の費用対効果を増すことが期待できる。また、クラブ組織の考え方を応用して、地域社会に密着した社会資本の整備については、地方債を起債して地域住民や企業にその固定費用の負担をあおぐという考え方もある。
資金調達という視点からは、現在、急速にすすんでいる金融制度改革が浸透すれば、政策担当者ではなく金融市場が公債のマーケットリスクを評価する時代がいずれ訪れるものと考えられる。そのときに、国や地方が運営している公企業のなかで金融市場で資金を調達できるものは、公営企業会計にもとづいて会計処理され採算性が客観的に評価できる事業であろう。今後、公共部門から民間部門ヘの資金の配分を促す必要があること、ならびに公企業の採算性と経営効率を金融市場を通して評価する手段として、わが国でもレベニューボンド制度の部分的な導入について検討する余地がある。
レベニューボンド制度は、中央政府からの直接補助に比べて非効率的な補助である。また、わが国の地方債に同制度を導入するには、所得税や法人税などの国税を免除するか、あるいは住民税や法人事業税などの地方税を免除するなどの思い切った措置が必要となる。いずれのケースについても、現行の地方交付税交付金制度を改革し、地方へ課税権を移譲する必要がある。また、税額控除がある地方債を扱う企業体としては、地方公共団体と地方議会の監視のもとにおくことができるという点で地方公営企業を受け皿として活用するのが望ましい。
現行のような財政補填による地方公営企業の運営は、企業のモラルハザードを誘発するおそれがあり、地方公共団体の一般財源にも影響を及ぼす。機会費用としての税金の使い方という点から、地方公共団体は社会資本整備の建設や運営に関する会計情報を分析し納税者に説明する義務がある。今後は、地方債制度の改革により地方公営企業の財政的な自律性を強化するとともに、会計上の透明性を増し、社会資本整備の費用対効果に応じて投資ができるような財政的環境を整えていく必要がある。地方公共団体と地方議会の監視だけでなく、資金調達を通じて金融市場の圧力にさらすことも企業としての自律性を高めるのに効果的である。
地方が直面している深刻な財政難のもとでは、地域密着型の社会資本整備の資金調達、建設、管理、運営、事後的な費用対効果の検証といった問題を考えながら、限られた財源のもとで住民の満足をもっとも高めるような政策の選択をどのようにすべきか住民と地方公共団体が判断すべきであろう。これからは、自治体の経営戦略として、地域の産業ビジョンのもとに港湾とその背後圏に広がる産業を活性化し税収を確保することがますます重要になる。