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については、利回り8%の社債よりも、利回り6%の地方債のほうが税引き後投資収益が大きくなる。一方、所得税率が25%の投資家については、利回り8%の社債を買っても、利回り6%の地方債を買っても同じ投資収益を得る。

ある投資家について、課税債券、あるいは非課税債券からの投資収益が同じになる限界所得税率は、課税債券の金利と非課税債券の金利の差を、課税債券の金利で割ったものに等しい。数式でこの関係をあらわすと以下のとおりである。

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このとき、t*はある投資家が、課税債券、あるいは非課税債券から同じ投資収益を得るときの限界所得税率、rは課税債券の利率、sは非課税債券の利率をあらわす。以上から、州・地方政府の地方債については、それに比較しうる民間部門や連邦政府の国債よりもより低い利率で借入れができる。

 

注10 Fisher[1996]245-241ページを抄訳した。

 

(4) 非課税措置の経済的意味合いと分析11

 

1)投資家の行動

州・地方政府が起債する地方債の保有者は、個人、商業銀行、および保険会社である。集計された数値でみると、これら保有者の構成比に大きな変化がみられる。1950年代は、地方債の40%以上を個人が保有していた。その後、個人の保有は次第に減少し80年代に約25%まで減少したが、その後、急に増加し93年には65%以上に達した。逆に、商業銀行の地方債の保有量は60年代と70年代初頭は急速に増え続けたが、80年代に入って急に減少し、90年代に入ると約10%程度になった。保険会社の保有量も80年代に減少したが、商業銀行の保有量の減少ほど著しいものではなかった。

経済学の分析では、限界所得税率によって、非課税の地方債が限界的に魅力ある資産となる投資家について分析することが重要だ。例えば、課税債券と非課税債券の収益率の差が25%であったとする。個人投資家を考えた場合、限界所得税率が25%よりもかなり高い高所得者にとって、非課税債券は魅力的な金融資産である。ここで、地方債の供給が増えたとしよう。すると、これを買う個人投資家の限界所得税率は、およそ25%かそれより少し低い人々である。もし、課税債券と非課税債券の利回りの乖離率が以前よりも小さくなれば、限界所得税率が25%かそれより少し低い投資家にとって非課税債券は魅力ある金融資産となる。そのとき、限界的な投資家とは中間所得層である。

 

2)非課税措置の資源配分上の効率性

もし、州・地方政府の地方債の利子所得を非課税にする目的が地方政府の借入費用を小さくするためであるなら、それは非効率な補助金である。なぜなら、州・地方政府によって節約される利子1ドルに対して、連邦政府は1ドルより多くの税収を失うからである。例えば、地方債については、州・地方政府は額面1万ドルの地方債を売るたびに年間200ドルを節約できる。一方、非課税の地方債を買った投資家については、彼が手にする連邦所得税の節約分は彼自身の限界所得税率によってちがう。連邦所得税の節約分は、利子所得800ドルに限界所得税率を掛けたものだから、所得税率28%の人については224ドル、32%の人については256ドルとなる。したがって、税引き後の収益率が課税債券と非課税債券で等しくなる限界所得税率(先の例では25%)よりも高い所得税率の投資家が節約で

 

 

 

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