そのようなインセンティブは、投票者の大半が一時的な住人であるような行政区でより大きいかもしれない。だが、将来的な租税負担がその行政区の住宅価格に資本化されれば、地方債による資金調達は相殺されるかもしれない。すなわち、将来的な租税負担の増加のために現在の住宅価格が下がれば、現在の住人も税を部分的に負担することになる。
近年は、州・地方政府の地方債による資金調達のおもな理由は、個人や企業によって行なわれる投資を補助することである。州・地方政府は、個人や企業よりもより安い金利で資金調達ができる。その理由は、地方債を買った投資家の利子所得については連邦政府の所得税が控除されるためである。したがって、州・地方政府はより安い金利で資金調達し、それを借入れの金利と同じか少し高い金利(それでも、個人や企業が独自で資金調達するよりも安い金利)で個人や企業に貸し付けるのである。これらの資金は、抵当権に対する補助、奨学金、ゴミ処理場、産業振興補助などに利用される。要するに、州・地方政府、およびそれらの付属機関は、非課税の金利で資金調達する権利を、個人投資家に移転しているのである。
注8 Fisher[1996]236-245ベージを抄訳した。
注9 納税者が移住して増税を逃れることを考えた場合、これは地方債の食い逃げ効果とよばれる。わが国では、地方債の食い逃げ効果が起債制限の経済的な根拠とされてきた。
3)州・地方政府の資金調達方法
1991年において、州・地方政府の地方債のうち約98%が長期の債券である。州・地方政府の長期の債券は、2つのタイプに分けることができる。第1のタイプの長期債券は、一般地方債(General Obligation bonds:GO bonds)で、地方政府が元利償還を保証している債券である。この債券については、地方政府は投資家に対して、利子と元金償還のために利用できるいかなる資金を使っても必ず償還しなければならない。もし、ある理由で州・地方政府が投資家に対して、利子または元金の償還をするのに十分な資金が用意できない場合、あるいは用意する意思がない場合には、地方政府の債務不履行(default)が生じる。このとき、その政府は破産し、債権者は法廷に行き政府やその関係機関の資産を差し押さえることができる。
第2のタイプの長期債券は、レベニューボンド(revenue bond)あるいは非保証債(nonguaranteed bond)とよばれる。この債券については、ある特定の事業から得られる収益で元利償還が行なわれる。もし、ある特定の事業から得られる収益が不足して元利償還ができない場合には、投資家が損失を負うことになる。したがって、投資家の立場からすれば、レベニューボンドのほうが一般地方債よりもリスクが大きい。具体例としては、ある州政府、あるいは州の交通局が橋を建設する費用をまかなうためにレベニューボンドを起債する場合には、その橋が完成したあかつきに通行料金を得て、これを元利償還にあてることになる。もし、その橋の利用者が予想を下まわり、高い利用料金を設定しても予想収入と現実の収入の差を埋めることができない場合には、投資家が損失をこうむるであろう。
91年までに州・地方政府が起債した長期債券のうち約70%がレベニューボンドであった。これに対して、92年と93年に起債された長期債券のうち約67%がレベニューボンドである。
地方債の売買に関して重要なのは、州・地方政府の債券は、通常、ムーディーズ・インベスター・サービス社、あるいはスタンダード・アンド・プアーズ社の2大格付機関のうち少なくとも1社から格付けを受けなければならないことだ(格付けは、AAA,AA・A,BBB,などのように付けられる)。格付けの目的は、ある債券について確認できるリスクの度合いを、潜在的な投資家に示すことである。そして、確認できるリスクの度合いは、起債した地方政府の経済的状況と財政の健全さ、および資金が投じられる特定の目的や事業についての経済的状況と財政の健全さの両方によって決まる。合衆国には、既存の州・地方政府の非課税債券を投資家が投資信託を通じて売買できる活発な債券市場が存在する。投資信託は、投資会社が多くの市債を買い、これを個人投資家に小口で転売するシステムである。