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状態にしておくことに対して基本料金を払い、利用量に応じて従量料金を払うシステムになっている。つまり、常に利用可能な状態が公共財にあたり、実際の利用は私的財にあたる?@港湾クラブの場合も、常に港湾が使える状態にあることが公共財で、これに対して頭割りの住民税(基本料金)を設け住民(受益者)が払う。港湾サービスの利用料金(従量料金)は、利用に対する対価だから利用者が払うことになる。

次に、二部料金制をとるクラブ組織を作るにあたり、港湾建設にどれぐらいの税金を投入しなければならないのか、それに見合った便益が地域に生じるのかどうか、料金はいくらにすべきか、地方債発行によって財源調達するならば将来世代との税負担の公平性はどうなるか、について慎重に考える必要がある。ある市の財政では港湾整備が無理ならば、港湾から便益を受ける隣接市町村との連携や合併による財源調達も検討に値する。

二部料金制度のもとにクラブを組織して港湾整備と運営を行なうという案は、それほど奇抜なものではない。現行のように地方公共団体の一般会計から港湾事業特別会計への繰入れが行なわれている状況は二部料金制度に似ている。つまり、基本料金に相当する部分を一般会計から港湾事業特別会計への繰入れ、従量料金に相当するところを港湾サービスの利用料金と考えることができる。

ここで、事業の採算性という視点とは別に、地方公共団体がクラブを組織することのメリットとして以下の3点が考えられる。

?@現行の制度のもとでは一般会計のなかで財務処理されている港湾事業と特別会計で財務処理されている港湾事業を合わせて管理することにより、港湾事業が地方財政のなかで占めている重要度をあきらかにすることができる。

?A港湾事業とそれに関連した土地造成事業を一元的に管理することにより、港湾空間の効果的な利用が可能となり、港湾整備や周辺の土地造成から生じた便益を評価できる。

?B港湾管理者が地方公共団体である場合、港湾と周辺地域を中心とした地域産業政策を策定し実施することができる。

 

(3) 地域戦略としての社会資本整備

 

今後、地方の財政難のもとでは、地域密着型の社会資本整備の建設、管理、運営、財源調達といった問題を考えながら、限られた財源のもとで住民の満足を高めるような政策の選択をどうすべきか住民と、地方公共団体が判断する必要がある。その場合、事業の当面の採算性だけを追求すると、世代間にわたって利用する大規模な社会資本整備は実現できなくなる。あくまでも長期的な視点に立ち、地域戦略としての社会資本整備にどれぐらいの財源を投入し、事後的にどれぐらいの直接的便益、間接的便益を生み出しているのかを検証できるような制度を整える必要がある。例えば、港湾建設ならば、まず建設する必要があるのかどうかについて、サービスの内容、規模、総費用、運営形態、財源調達と負担方法などについて政策判断の拠りどころとなる評価基準をオープンにして議論する場が必要であろう。行政側に期待される役割は、地域の産業ビジョンを策定したうえで、港湾と周辺地域を中心とした地域産業政策や隣接自治体との連携による地域ブロックの産業政策を策定し、企業誘致を目的とした情報発信のためのネットワークを整備することである。

なお、地方分権の視点からすれば、社会資本整備に関して行政サービスの介入が期待される部分は、民間部門ではリスクが大きすぎて分担できない部分、すなわち基盤施設の建設と資金調達に限られるであろう。また、公共部門が整備してきた交通基盤施設を民間部門の資金導入や施設の建設によって

 

 

 

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