ては、これらを合わせて最適な自治単位と最適なサービスの組み合わせを選ぶことになる。
ヨコの関係に関する地方分権化の議論では、96年3月に提出された地方分権推進委員会の中間報告で、分権型の行政システムに期待される効果として、地方公共団体が相互にその意欲と知恵と能力を競い合う状態を作り出せば、そのことが各地方公共団体の改革を促し財政的な格差を是正する効果をもちうることが述べられている。
2)クラブ組織による地域的公共財の供結
次に、行政サービスの受益と税負担の不一致が深刻な場合に、できるだけこれらを一致させ財政格差を解決するための手段として、クラブ組織の考え方を提案する。なお、ここでいう公共財とは、多数の人々が集合的に消費する財やサービスをさす。地域密着型の社会資本、例えば地下鉄、下水道、ゴミ処理場などは、公共性のあるサービスとして地方公共団体が供給することが多い。しかし、公共性をもつ財だから、必ず地方公共団体が税金を集めて供給しなければならないというわけではない。公共性のあるサービスから便益を得ると思われる人々、つまり受益者が自発的にクラブを組織し、会費を集めてサービスを供給するという考え方もある。
地方公共団体が供給している行政サービス、例えば医療、教育、環境衛生、警察、消防などのサービスは財政学の分野で地域的公共財とよばれる。地域的というのは、便益の及ぶ範囲が地域的に限られているという意味であり、公共財とは専門用語を使えば排除不能で非競合性をもつ財である。例えば港湾であれば、その利用可能性(サービスがいつでも使える状態にあること)が公共財にあたる。つまり、ひとたび港湾が建設されると、一定の地域内の人々や企業は、実際に使わなくとも利用可能性という便益を等しく得る。また、誰かがそのような便益を得たからといって、他の人の便益がその分だけ減るわけではない。その一方で、港湾施設を利用する度に料金を支払う必要があるから、港湾サービスそのものは純粋な私的財である。
ところで、公共財がもつ特性は何だろうか。ひとたび港湾が建設されると、周辺の企業や住民は港湾から直接的、間接的に何らかの便益を得る。例えば、港湾整備による人や物の輸送時間の短縮やコストの削減という直接的な便益や、地域経済の活性化や地価の上昇といった問接的な便益である。つまり、実際に港湾を使わなくとも何らかの便益を得る不特定多数の人々、つまり「受益者」が生じる。
ここで、財政削減のため港湾建設に対する国からの補助制度がなくなったとしよう。行政サービスの受益と税負担を一致させるため、便益が及ぶ地域に住む受益者の税金で港湾を整備するとしたら、どのようにして財源を調達することができるのか。便益が及ぶ範囲と行政区画が一致しているならば、現行の財政制度を改善して地方に課税権を移し、港湾建設や運営等に関する諸規制を緩和すれば、あながち不可能とはいえない。つまり、港湾から便益を得ると思われるすべての企業や人々がクラブ組織を作り、会費を集めて港湾サービスを供給するのである。この場合、地方公共団体は必ずしも港湾を行政サービスとして供給する必要はない。会員の代理人として整備に関わる企画業務を担当し、実際の運営は民間会社に委託するという方法もある。
では、クラブの料金はどう考えたらいいのか。この場合、頭割りの市民税を基本料金として払い、港湾を利用するたびに従量料金を払うという二部構成にする方法がある。つまり、電話や電気料金のような二部料金制度でクラブ会費を徴収するのである。二部料金は、利用者が特定できる場合に、総費用に占める固定費が大きいために限界費用による料金設定が資源配分上効率的ではないようなサービスの供給について、総費用を回収しつつ一定の収益をあげるように工夫された料金設定方法である。典型例が電話や電気料金だが、これらのサービスではたとえ1カ月間使わなくとも、常に利用可能な