(2) 地方分権化と財政格差の是正
1)地方財政からみた地方分権化の考え方
深刻化する行政サービスからの受益と税負担の不一致を解決するために、最近は地方分権化という考え方が注目を集めている。地方分権化の議論では、政府による中央集権的な政策決定では、価値観が多様化した地方の要求を満たすような行政サービスが提供できなくなっていることが問題視されている。その背景には、人々の行政に対するニーズが多様化し、これを把握するための情報収集のコストが政府にとって過大な負担となっていることがある。このような問題を解決するために、国と地方の役割分担に関して国の権限を大幅に地方に委譲し、地方歳入のなかの自主財源を増やすことにより分権的な政策決定の自由度を広げようとするのが地方分権化についての大方の理解であろう。
地方財政からみた場合、地方分権化に何が期待できるだろうか。少なくとも、住民の所得と行政サ―ビスに対する好みをよく知っている地方公共団体に、地域に密着した行政サービス、例えば土地利用、福祉・保健・衛生関係、幼児保育や文化・教育関係の分野を任せれば、各地域の実状に応じた内容のサービスが提供されると考えられる。
しかし、一口に地方分権といっても、国から地方への行政事務の再配分という「タテの関係」と、地方公共団体の行政区域の細分化という「ヨコの関係」に分けて考える必要がある。「タテの関係」とは、例えば中央省庁は資源配分、所得再分配、経済安定化、産業政策などの、何らかの理念にもとづいた企画段階の仕事を担当し、実際の執行については地方公共団体が担当するというような行政事務の仕分けに関するものである。一方、「ヨコの関係」については、行政サービスの生産と消費の両面から地方公共団体の人口規模を考える。例えば、公共交通や上・下水道などの社会資本の整備、高等教育、警察などのサービスを提供する地方公共団体の側からみれば、小さな行政単位が個別に担当するよりは広域的な行政単位が担当したほうがより安くサービスが提供できる場合があり、地方公共団体の連携や合併による広域行政化が必要とされる。その一方で、行政サービスの消費者である地域住民の立場に立てば、県よりは市が、市よりは町が決定できたほうが住民の希望がより反映され、事務手続きも短時間で処理できる行政サービスが数多くある。
地方分権化すれば現状よりも住民の要求をよりよく満たすことができるとする最近の論調は、タテの関係からみるとそれぞれの地方公共団体が限られた財源を公的部門と民間部門に自由に配分できるような地方財政制度に作り直そうとする考え方を提案している。一方、ヨコの関係からみれば、地方公共団体の基礎単位をどれぐらいの人口規模にするか、そして地方公共団体の連携関係をどのようにするかということを示している。
これらのタテ関係とヨコ関係について、さまざまな提案が出されてきた。タテの関係に関する国と地方公共団体の事務の分担については、すでに1960年代後半から地方公共団体や経済団体、研究者から中央集権的な政策決定と繁雑な事務手続きによって生じる非効率が指摘され、具体的な改善案が数多く提案されてきた。タテの関係の議論では、個々の行政サービスについてその内容を知ったうえで、適切な行政単位に権限と事務を割り当てるという作業が必要となる。実際、過去4回にわたって発表された地方分権委員会勧告においては、国と地方の間の事務配分、とりわけ機関委任事務の割当てが中心となっている。
地方分権のヨコの関係については、特定の行政サービス(例えば図書館や美術館など)を想定して、それをどれぐらいの人口規模で消費するのが最適なのか、という考え方が一方にある。もう一方は、基礎的な自治単位の人口規模を定めてそこで必要とされる最適なサービスの水準を決める。論理とし