こでは地方譲与税を省略している)。Y県では、税収が100であり、普通交付税は20、留保財源は20となる。留保財源があるので、地方間の財政力格差は完全には是正されない。
交付税制度は、いわば地方公共団体の共有の財布といえるのだが、共有の財布がある限り、地方の経済的自立は期待できない。なぜなら、同制度のもとでは、例えば企業誘致によって地方税収を増やす努力をしても、その地方公共団体の手元に残るのは増収分のわずか20%(留保財源)にすぎない。また、標準税率よりも低い普通税率によって住民や企業を増やそうとすれば交付税が得られない。すなわち交付税制度は、地方公共団体の自主財源拡充のインセンティブを抑えるようなシステムになっている。
注5 詳しくは、林宜嗣『財政危機の経済学』、177-193ベージを参照。同論文では、地方交付税を?@税収格差の解消部分、?A地域特性にもとづく行政需要格差の解消部分に分け、70年代に?@が?Aを上まわった理由を分析している。
3)地方交付税制度のもとでの財政需要増加のメカニズム
交付税制度のもとでは、地方公共団体にとって普通交付税(つまリー般財源)を増やす合理的な選択とは、財政需要を増やすことにほかならない。以下では、港湾施設の整備について、交付税制度にもとづいた地方債元利償還優遇措置が財政需要を増やしていくメカニズムを解説する。
ある地方公共団体が、行政区域内にある特定需要港湾の係留施設を建設するとしよう。この場合、国庫補助率は図表8-1(165ページ)のように定められている。一方、地方が負担する資金は、港湾管理者(地方公共団体)が地方債を起債して調達する。地方債の元利償還は一定の据置期間後に毎年行なわれるが、その財源は地方公共団体の一般会計からの繰入れと交付税によってまかなわれている。
仮に、係留施設を建設するための費用が40億円であり、初年度に建設が完了するものとする。特定需要港湾の係留施設について、国庫補助率は5/10とされているので、地方の負担分は20億円である。地方の負担分20億円のうち、地方債の起債によって資金調達ができる部分は、一般会計債のなかの一般公共事業債の起債充当率によって定められている。例えば公共事業債の起債充当率が85%のとき、20億円×85%=17億円は地方債でまかなうことができ、残りの3億円を一般会計から負担することになる。
一般公共事業債の起債について重要な点は、一般公共事業債の金額が20〜40%の通常充当分の地方債と、「いわゆる財源対策債」の2つに分けられることである。20%の通常充当分の地方債については3年間の据置期間後に、17億円×20%=3.4億円を償還期間20年、金利6%程度で地方債で返済することになる。「いわゆる財源対策債」については、残りの13.6億円を償還期間20年、金利6%程度で返済することになる。
交付税制度との関係からみると、20%の通常充当分の地方債の償還金は投資的経費として扱われるので、この金額×事業費補正率が基準財政需要額に加えられる。また、「いわゆる財源対策債」はすべて公債費に計上される。さらに、普通会計から負担する3億円についても、単位費用×測定単位の数値×補正係数を計算して基準財政需要額に加えられる。このような地方債元利償還優遇措置による政策的な誘導が財政需要を膨らませる一方で、国全体としてみた場合の受益と税負担の不一致をいっそう深刻化している。
以上のように、公共事業を起こせば地方公共団体の基準財政需要額が増え、より多くの普通交付税が交付されるのでその地方団体の一般財源が増えるしくみになっている。地方債を起債して資金を調達し公共事業を行なえば、その瞬間は地域が経済的に豊かになったように納税者は勘違いしてしまう。これを財政錯覚とよぶが、財政錯覚による財政需要の増加が公債費を増大させ、地方の一般財源をますます硬直化させているのである。