これは結果としてそうなるのであって、逆にいえば収支を均衡させるために企業債や一般会計からの繰入れ、負担金による財政補填が必要となる。このうち、企業債の起債は地方財政計画によって全体額が定められていること、また地方公共団体の他の事業も起債するため、港湾事業における収支の悪化を改善するために弾力的に運用できるものではない。そのため、ひとたび資本的収支が悪化し損益勘定留保金による補填でも不足すれば、一般会計からの繰入れや負担金という形で地方公共団体の財政負担が必要になる。図表8-5(170ページ)の負担者別の財政支出の推移では、92年度から地方公共団体の財政負担が増え続けていることをみたが、その一次的な理由は港湾整備事業にともなう長期的なキャッシュフローの悪化によるものと推察できる。
4)減価償却費の役割
港湾事業の経常収支の悪化の一因として、しばしば指摘されるのが減価償却費である。しかし、減価償却費が増え続けるということは、港湾施設が建設され資産が増えたという事実をあらわしているにすぎない。また、企業活動の実績をあらわす貸借対照表と損益計算書を考えれば、損益計算書に計上される減価償却費が増加したということは、それに対応して貸借対照表の資産も増加したということを意味する。資産が増加するということは、それに対応して負債と資本も同じ額だけ増加しているので、ある施設の建設前と建設後では、資産、負債、資本がすべて変化していることになる。したがって、各年度に計上された減価償却費だけを比較して、ある企業の活動の成果を判断すべきではない。
公営事業の場合、減価償却費は収益的収支と資本的収支の橋渡しをする重要な役割を果たしている。すなわち、単年度のキャッシュフローと、長期にわたるキャッシュフローとを結び付ける損益勘定留保金の一部が減価償却費である。
減価償却は、適正な期間損益計算を行なうために、固定資産の価値の減耗分をある期間にわたって配分する。その結果、各年度末における固定資産の資産価値を評価し、固定資産に投下された資金を回収しつつ資産を維持することができる。以上の点は、公営企業会計と株式会社会計でちがいはない。
しかし、公営事業会計と株式会社会計を比べた場合に、公営企業会計の特色としてあげられる点は、企業活動を続けるために企業債を発行し資金調達を行なう点である。つまり、公営事業は借入金を元手に企業活動を続けるため、これを返済するための資金が必要になる。この借入金返済のための源資となるのが減価償却費である。以下では、減価償却費が収益的収支と資本的収支を橋渡しする役割を負っていることを説明する。
公営企業会計の予算の一部が資本的収支であり、そこでは施設の建設や改良にともなって生じる収入と支出を財務処理する。このような長期的な視点にたって必要となる財源は、おもに地方公営企業債(地方債の一種、以下では企業債とよぶ)でまかなわれ、一定の基準で利子とともに元金が償還される。これらの収支が資本的収支で予算化されている。
通常、資本的収支予算では、資本的支出が資本的収入を上まわる。これは、資本的支出のなかの企業債償還金に対応する財源が資本的収入に計上されないためである。企業債償還金は、過去に借り入れた企業債を計画的に償還していくものだが、その補填財源となるのは企業債で調達された資金と内部資金である。補填財源とは、資本的支出が資本的収入を上まわった場合にその差額を埋めるために必要な財源である。補填財源になる内部資金は、収益的収支で生じた利益金、および費用に計上された項目のうち現金の出入りをともなわない損益勘定留保資金である。
公営企業会計は発生主義にもとづいているため、収益的支出のなかには実際の現金の支出をともなわない費用も計上されている。このような費用を損益勘定留保資金とよび、科目としては減価償却費、