日本財団 図書館


4)官庁会計方式と公営企業会計方式のちがい

地方公営企業法の全部、あるいは財務規定のみを適用した公営企業は、費用と収益が発生した時点で把握する発生主義会計方式を採用することになっており、この点では普通法人の株式会社会計と同じである。そのため、地方公共団体が一般会計でとっている現金主義会計とは根本的に異なる(以下では後者を官庁会計方式とよぶ)。

地方公営企業を経営する目的は、公共の福祉を増進することにある。その政策目的を達成するために、経営の基本原則として民間企業がもつ経済性を発揮することが必要とされている。また、公営企業はサービスの受益者から料金を得て必要な経費をまかなうという独立採算制を経営の基本原則とする。この原則のもとで重要なことは、経常収支と財務状況を的確に把握することである。また、適正な料金を算定するためには、サービスを生産するための費用を正確に把握し、原価費用を算定する必要があるので発生主義にもとづく会計が不可欠となる。

地方公営企業法第20条においては、経営成績をあきらかにするために発生主義を採用すること、および財政状態をあきらかにするためにすべての資産、資本、負債の増減や異動をその発生の事実にもとづいて一定の評価基準に従って整理することが定められている。そのため、地方公営企業では株式会社会計とほぼ同様の複式簿記による財務処理を行なっている。また、決算では損益計算書、貸借対照表、剰余金計算書、剰余金処分計算書を作成する必要がある。これらの情報をもとに、決算において企業がもつ経済性がどの程度発揮されたか、そして料金水準が適正であるかどうかが評価される。

公営企業会計が独自にもつしくみのなかで重要なものが、予定収支予算である。予定収支予算は、当該年度事業に執行を予定している業務内容をあらわすもので、収益的収支予算と資本的収支予算の2つの部分から成る。公営企業会計の予算は発生主義会計を採用するところから、当該年度の企業活動にともなって生じると予想されるすべての収益とそれに対応するすべての費用が収益的収支予算(3条予算ともいう)に計上される。一方、施設の建設改良に要する支出やそれらの財源としての企業債収入、国庫補助金収入、企業債の償還金支出などの長期にわたるキャッシュフローが資本的収支予算(4条予算ともいう)に計上される。これらの予算にもとづいた活動の実績をあらわすのが決算報告書であり、収益的収入および支出、資本的収入および支出の2つの部分に分かれている。

比較のために地方公共団体が提供する行政サービスー般を考えると、これらは営利の追求を目的とするものではないので企業的な経営をする必要はない。また、個々の行政サービスに料金を算定することができないため、一般会計では単式簿記による現金の支出のみを財務処理する。これは、官庁会計方式とよばれている。地方公共団体の一般会計の予算は、現金の収支にもとづいて作成され、当該年度のすべての現金収入(一時取扱金の収入をのぞく)が歳入予算に、すべての現金支出(一時取扱金の支出をのぞく)が歳出予算に計上されて一本の予算となっている。官庁会計方式では、原則として減価償却が行なわれない。

以上の点から、官庁会計方式は会計の専門知識を必要としないという便宜があるものの、収支の実態や資金と資産の対応関係を正確に把握することができないので企業的な経営には不適当とされている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION