な状況を概観するとともに、近年、本格化してきた地方分権の考え方を解説する。今後、地方分権化がすすめば、社会資本整備のための資金調達、建設、運営について地方公共団体の政策決定の自由が増すものと予想できる。その一方で、社会政策としての役割が強いこれまでの公共事業のあり方が問い直され、プロジェクトヘの税金投入に対する効果が審査されることにより、地方の社会資本整備のための財源確保がいっそうきびしくなることを指摘する。また、港湾を含めた地域の生産活動の基盤をなす社会資本への効果的な投資が地域活性化の戦略となりうることを論じる。
第6節では、将来的に地方分権がすすんだ場合に、自治体が港湾整備のための資金調達としてとりうる手段の一つを紹介する。ここでは、アメリカで運用されているレベニューボンド制度を紹介し、起債による民間部門からの資金調達の長所と短所を整理する。レベニューボンド制度は、連邦財政制度のフレームワークのなかで機能する資金調達方法なので、この制度だけを切り取って日本の財政制度に貼り付けても機能しない。しかし、現在、わが国で急速にすすむ金融制度改革が浸透すれば、政策担当者ではなく金融市場が国債や地方債のマーケットリスクを評価する時代が遠からず訪れるものと考えられる。そのときに、国や地方が運営している公企業のなかで金融市場で資金調達ができるものは、公営企業会計にもとづいて会計処理され採算性が客観的に評価できる事業であろう。
そこで第7節では、地方公営企業の財政的な自律性を高めたうえで、日本型のレベニューボンド制度の部分的な導入により民間資金を導入し、地域戦略として港湾事業を活用する方策を提案する。
2. 港湾整備特別会計の概要と制度的な問題点
港湾整備の事業制度のうち、公共事業として行なわれている港湾関係事業は3種類ある。すなわち、港湾整備事業(港湾施設のうち基本的な施設の建設などを対象とする)、港湾機能施設整備事業(上屋、荷役機械などの設置を対象とする)、および臨海部土地造成事業(臨海部の用地造成を対象とする)だが、このうち港湾整備事業だけが特別会計で処理されている。他の2つの事業には国費は投入されず、地方債によって財源を調達して運営されている。
特別会計は、財政法第13条にもとづいて、?@国が特定の事業を行なう場合、?A特定の資金を保有してその運用を行なう場合、?Bその他特定の歳入をもって特定の歳出にあてて経理処理する必要がある場合、に設けられる。1997年度現在、38種類の特別会計がある。特別会計のなかの事業特別会計は11種類あり、国が特定の事業を行なう場合に設けられる。事業特別会計は、収益性のあるもの(造幣局、印刷局、国有林野事業、アルコール専売事業、郵政事業など)と、収益性のないもの(道路整備、港湾整備など)に分けられる。つまり、港湾整備特別会計は、事業特別会計のなかの収益性のない事業に分類されている。
港湾整備特別会計のおもな財源は、国費、港湾管理者負担金、財政投融資、および受益者負担金である。97年度の港湾整備事業費の財源は、総事業費1兆100億円で内訳は、国費3,600億円(35.7%)、港湾管理者負担金4,300億円(42.3%)、財政投融資など1,800億円(18%)、受益者負担金400億円(4%)となっている。国費の削減とともに、財政投融資が増加する傾向にある。
国費は、一般会計からの繰入れと、特別会計に直入される国税(地方譲与税)が源泉となっている。関税、トン税、特別トン税は港湾がある地方公共団体に譲与される。港湾管理者負担金の財源は、地方公共団体の一般財源と港湾収入(入港料や係留施設使用料など)である。ただし、後で述べるように港湾収入は原価費用を反映しない低い料率に抑えられているため、港湾管理者負担金のおもな財源