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は、地方公共団体の一般財源である。受益者負担金は、環境整備負担金、占有料・免許料、特別利用料、産業関連施設企業負担金などがあり、港湾施設の利用者が払う。

一般に、財政運営には必要な支出を行なうために、必要な資金を割り当てるしくみが必要である。特別会計は、特定の財源を特定の支出に結びつけることによって、財政運営を効率的に行なうために設けられる。しかし、特定財源を特別会計に割り当てると、財源があるから支出するという本末転倒の形になりやすい。近年、とくに問題視されているのが、電源開発税が直入される電源開発促進対策特別会計と、揮発油税が直入される道路整備特別会計である。

港湾整備特別会計の場合は、特定の財源と結び付いていないため、電源開発事業や道路整備事業のような問題は起こらない1。しかし、税収が一定の割合で港湾整備特別会計に繰り入れられるため、地域の必要性に応じた港湾施設の建設というよりは、予算消化のための財政運営に陥りやすいという構造的な問題が依然として残されている。

 

注1 国の一般会計から港湾整備特別会計に繰り入れられる財源と、関税やトン税との関連性はない。特別トン税は港湾管理者と譲与先の市町村が必ずしも一致していないので港湾整備のための特定財源とはいえない。

 

歳出面からみた港湾整備特別会計の問題点は、港湾種別に補助率が一律に定められていることである。図表8-1(165ページ)には、港湾整備事業等の補助率、および国と港湾管理者の費用負担率が示されている。事業区分をみると、全国の港湾が、特定重要港湾(21港)、重要港湾(112港)、地方港湾(961港)、避難港(35港)の4種類に分類されている。港湾種別に補助率に格差が付けられるのは、港湾建設や施設整備が背後圏に及ぼす経済効果の大きさによるものと考えられる。

経済効果という側面からみると、公共投資が果たすべき本来の目的は事業効果をあげることである。事業効果は、直接効果と間接効果に分けられる。(港湾整備が地域経済に与える直接効果と間接効果の計測については第7章第1節(4)を参照)。直接効果とは、例えば港湾、鉄道、道路、空港などの基盤施設を建設することによって、人の移動や物資の輸送が以前よりも効率的に行なわれ時間が節約されるといった効果である。間接効果は、公共投資によって社会資本が整備されることにより土地利用が効果的に行なわれたり地域経済が活性化することをさす。

これまでの公共投資では、事業効果よりもむしろ総需要効果のほうが期待されてきた。つまり、公共投資そのものが地域経済にとって総需要になるとともに、公共投資の波及効果(生産の拡大、所得の増加、消費の増加というサイクルを経て乗数倍の需要が生じること)が地域経済を潤すと期待できる。現在でも、地方の景気対策は依然として公共投資の増加に頼りきっているが、これは公共投資が地域の需要を喚起し、短期的に効き目を発揮しそうにみえるためである。そのため、1兆円の投資が行なわれれば1兆円の便益が生じるものと勘違いしたり、景気への短期的な影響力を便益と考えてしまう傾向がある。しかし、これらは事業効果ではない。

事業効果よりもむしろ総需要効果のほうが期待されるもう一つの理由は、社会資本から生じる便益を測ることが困難なことであろう。民間企業であれば、採算性の乏しい事業には投資しない。しかし、民間企業と異なり公企業は公共の福祉の増進を目的とするために、売上げや収益といった数量的なものさしによって事業の成果を測ることがない。港湾を含めた社会資本の建設についても、建設前には建設が行なわれた場合の費用便益や地域の雇用への効果が世の注目を集めるが、建設後に生じた社会的な便益については検証されていない。

実際のところ、建設後に生じた経済的な外部効果の大きさを確認するのは容易なことではない。例えば、特定重要港湾の近くには大都市があり、大量消費を満たすための効率的な物流システムが必要とされている。消費される物資の多くは海外から輸入されるから、物資の受入れ口として都市の近くに大規模な港湾をもつことは物流コストの節約という意味で望ましい。しかし、アジア域内の拠点港に並ぶ大深水の国際海上コンテナ・ターミナルを次々に整備をしたあとで、これらの施設が効率的に利用され、建設前に期待されたとおりの便益をもたらしているかどうかの事後的な検証はなされていない。最新の港湾施設を整えたからといって、ただちにその港湾のサービスが向上し、地域の物流の効率化や経済の活性化に大きく貢献するというわけではない。港湾は、都市の物流を支える一つの結節点にすぎない。それが地域の集荷体制にあわせて設計され、他の運輸機関や流通・保管機能とうまく結びつき、その地域の物資の流れに適合したときに初めて基盤施設としての威力を発揮する。その意味で、地域の必要に応じた港湾投資や関連施設の建設、および港湾施設と連結される他の交通基盤を一体として整備できるような財政上のしくみを早急に検討する必要がある。

港湾整備財源として財政投融資が急速に増えつつあることからも、今後は港湾を含めた社会資本整備への投資効果を検証する必要がある。港湾整備財源の内訳をみると、90年度の財政投融資のシェアは1.2%にすぎなかったが、97年度のシェアは18%に増加している。港湾整備特別会計の場合は、特別会計の他の事業分野に比べ財政投融資の比率がきわめて小さいことが特色であったが、国費の削減とともに財政投融資は急速に増加している。財政投融資計画について問題とされている点は、投融資の費用と運用益が管理できていないことである。その原因は財政投融資の源資である郵便貯金や年金保険料が増え続けたため、投資先の運用益を考えずに資産運用が安易に行なわれ、収支の規律が損なわれたことにある。財政投融資の制度改革の一環として、投融資の効果を国民にみえるようにするためにも、社会的な資産形成に対する投資効率をあきらかにすべきであろう。財政投融資を使った港湾建設についても、今後は地域経済にどれほどの社会的便益をもたらしているのかを事後的に検証し、費用対効果をあきらかにする必要がある。

また、現行のように港湾種別にしたがって補助が行なわれると、同じ種類に分類される港湾については、それぞれの地域の産業構造や物流の特性とは無関係に一律に同じような港湾の建設が行なわれてしまう。今後は、一律の補助率を見直し、国際競争に直面している拠点港湾を選別し、費用対効果を見極めたうえで集中的な建設投資ができるような制度に改革する必要がある。

なお、本章第5節では、地方公共団体による戦略的な社会資本整備を促す地方分権化の考え方を提案し、第6節では地方分権のもとでの財源調達の手段を紹介する。

 

 

 

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